介護施設の倒産・廃業が急増している理由と経営を守るための対策

この記事でわかること

  • 2024年の介護事業者倒産件数と廃業の実態
  • 倒産・廃業を引き起こす3つの構造的要因
  • 経営リスクが高い施設に共通する特徴と早期警戒サイン
  • 今すぐ取り組める経営改善・人材確保の具体策

「介護施設の倒産・廃業が増えている」という声が業界全体に広がっています。近隣の訪問介護事業所が突然廃業した、知り合いの施設長が経営を畳んだという話を聞く機会が増えた、という施設長も多いのではないでしょうか。

東京商工リサーチの調査によると、2024年の老人福祉・介護事業者の倒産件数は過去最多水準に達しました。倒産に至らなくても、採算が取れないまま静かに廃業を選ぶ事業者はさらに多く、事業撤退の動きは業界全体に広がっています。

この記事では、なぜいま介護施設の倒産・廃業が急増しているのか、その構造的な背景を整理するとともに、経営難を乗り越えるための実践的な対策を施設長・経営層の視点でお届けします。

介護施設の倒産・廃業件数の実態(2024年)

倒産件数は過去最多水準

東京商工リサーチの調査によると、2024年の老人福祉・介護事業の倒産件数は約160件で、統計を遡れる2000年代以降の最多水準となりました。前年の122件(2023年)から大幅に増加しており、介護業界の経営環境の厳しさを端的に示す数字です。

倒産の形態を見ると、破産が全体の約9割を占めます。再建型の法的手続き(民事再生・会社更生など)を選べるほどの資力が残っていないケースが多く、利用者・職員が突然路頭に迷うリスクも高まっています。

廃業は倒産の数倍存在する

注意が必要なのは、倒産件数はあくまで氷山の一角という点です。 独立行政法人福祉医療機構(WAM) の経営分析では、指定返還・廃業届を含む事業撤退件数は倒産件数の数倍にのぼるとされています。多くの場合、赤字が続いても金融機関から資金調達できているうちは倒産に至らず、返済の見通しが立たなくなった時点で静かに廃業を選びます。

倒産と廃業の主な違いは以下の通りです。

倒産と廃業の違いを整理する

倒産

  • 定義: 債務超過・支払い不能により法的整理または銀行取引停止
  • 手続き: 破産・民事再生など法的手続きが必要
  • 記録: 帝国データバンク・東京商工リサーチ等に記録が残る
  • 特徴: 突発的に発生し、利用者・職員への影響が大きい

廃業

  • 定義: 経営者の意思で事業を終了(黒字廃業を含む)
  • 手続き: 都道府県への指定返還・関係機関への届出
  • 記録: 原則非公開(指定更新をしないケースも含まれる)
  • 特徴: 経営者の高齢化・後継者不在が原因になることも多い

小規模の訪問介護事業所やデイサービスでは、経営者の高齢化・後継者不在を理由に廃業するケースも増えています。このような「事業承継問題」に起因する廃業は倒産統計には現れにくく、実態はより深刻です。

小規模・居宅系サービスが特に脆弱

業種別に見ると、訪問介護・デイサービス・小規模多機能型居宅介護などの居宅系サービスで倒産・廃業が集中しています。施設系(特養・老健など)と比べて参入障壁が低い反面、稼働状況・利用者数の変動が経営に直結しやすいためです。

2024年度の介護報酬改定では訪問介護の生活援助に関する基本報酬が実質的に引き下げられ、人件費の高騰と重なって小規模訪問介護事業所を直撃しました。

倒産・廃業を引き起こす3つの構造的要因

介護施設の経営難は、一つの原因ではなく複数の要因が同時進行して起きています。2024年以降の倒産急増を招いた主要因は次の3つです。

要因1:慢性的な人手不足と人件費の上昇

厚生労働省の介護事業実態調査 によると、介護事業者の約6割が「人材の確保が困難」と回答しており、深刻な人手不足が続いています。

人手が足りなければ、本来受け入れられるはずの利用者・入居者を断らざるを得ません。施設系では稼働率の低下が直接的な減収につながります。さらに、人材を確保するために給与水準を引き上げると人件費比率が上昇し、収支がさらに悪化するという悪循環に陥ります。訪問介護においては、ヘルパーの確保が困難で利用者のニーズに応えられないまま経営が行き詰まる事業所も増えています。

介護業界の人手不足の構造については、 介護業界の人手不足の現状と対策 でも詳しく取り上げています。

要因2:介護報酬の伸び悩み

介護サービスの収益は、その大部分が公定された介護報酬によって決まります。介護報酬は3年ごとに改定されますが、物価上昇や人件費の増加ペースに追いついていないのが実情です。

2024年度の介護報酬改定では、全体として+1.59%(処遇改善加算を含む実質ベース)の引き上げが行われました。しかし光熱費・食材費・人件費の上昇率と比較すると収益改善効果は限定的で、特に訪問介護の基本報酬は実質引き下げとなり、業界から強い反発の声が上がりました。

小規模事業者ほど固定費の割合が高く、わずかな報酬削減でも経営に大きなダメージを受ける構造になっています。

要因3:物価高騰による運営コストの上昇

2022年以降の物価上昇は、介護施設の運営コストにも直撃しました。

  • 食材費:前年比+10〜15%(給食提供施設の場合)
  • 光熱費:前年比+20〜30%(特に冬季暖房費)
  • 衛生消耗品:マスク・手袋等の価格高止まり
  • 燃料費:訪問系サービスの移動コスト増

介護報酬は公定されているため、コスト増加分を利用料金に上乗せすることは基本的にできません。このコスト転嫁ができない構造が、特に中小規模の事業者を直撃しています。

経営リスクが高い施設に共通する特徴

介護施設の倒産・廃業の前には、必ず経営悪化のサインが現れます。以下の項目に複数該当する場合は、早急な対策が必要です。

稼働率・利用率の低下が続いている

施設系サービスでは、稼働率80%以下が赤字転落の目安とされます。入居者の退去後に後継者が決まらない、マーケティング不足で入居相談が来ない、といった状況が続くと損益分岐点を割り込みます。

居宅系サービス(デイサービス・訪問介護)では、ケアマネジャーからの新規紹介が減少している場合も要注意です。地域のケアマネとの関係構築が弱いと、新規利用者の流入が止まります。稼働率の推移は月次で必ず追い、前年比較も行う習慣をつけてください。

介護職員の離職率が高止まりしている

職員の離職率が年率20%を超える施設では、採用コストと育成コストが経営を圧迫し始めます。介護労働安定センターの調査では、介護業界全体の離職率は約14〜15%程度です。20%超は明らかに高い水準であり、組織的な問題が潜んでいるサインです。

離職が多い施設では、常に人材が不足し、既存職員への負担が増え、さらに離職を招くという悪循環が生まれます。離職率の改善は、採用コストの削減だけでなく稼働率の安定にも直結します。

月次の資金繰り管理ができていない

運転資金を金融機関からの短期借入で賄っている場合、売上の減少や予期しないコスト増が起きると資金繰りが一気に悪化します。月次の資金繰り表を作成していない施設では、問題に気づいた時点で手遅れになるリスクがあります。月次での収支管理・向こう3か月分の資金繰り予測は、経営安定の最低条件です。

加算の算定漏れが放置されている

介護報酬には基本報酬に加えて多数の加算・減算が存在します。算定基準を満たしているにもかかわらず書類整備が追いつかず、加算を取りこぼしたままになっている施設は少なくありません。月次の収益を最大化できていない状態が続くと、じわじわと経営体力を削られます。

倒産・廃業を防ぐための経営改善策

経営危機のサインが見えたとき、あるいは将来に備えて事前に対策を打ちたい場合、以下の施策が有効です。

施策1:稼働率・利用率の改善

稼働率向上のためには、マーケティング活動の強化地域連携が欠かせません。

  • 地域のケアマネジャーへの定期的な情報提供(サービス内容・空床状況)
  • 見学・体験入居の受け入れ体制の整備
  • 地域包括支援センターとの関係強化
  • 施設のウェブサイト・SNS を活用した継続的な情報発信

施設系では、空床率を下げるための「営業活動」を体系化している施設ほど経営が安定しています。サービスの質を外部に発信することは、単なる宣伝ではなく経営インフラです。

施策2:介護報酬加算の算定漏れを解消する

取得できる加算を正確に把握し、算定漏れを解消することは追加コストゼロで収益を改善できる即効性の高い施策です。まず自施設の加算算定状況を棚卸しすることをお勧めします。見直しの優先順位が高い加算の例は以下の通りです。

  • 特定処遇改善加算・ベースアップ等支援加算の確実な算定
  • 看護体制加算・夜勤体制加算などの体制系加算
  • 科学的介護推進体制加算(LIFE活用)
  • 認知症専門ケア加算・口腔衛生管理加算

外部の介護経営コンサルタントや社会保険労務士に依頼することで、見落としている加算が発見されるケースも多くあります。

施策3:WAM融資・公的支援制度の活用

独立行政法人福祉医療機構(WAM) は、介護事業者向けの低利融資制度を提供しています。設備更新・施設改修だけでなく、一定の要件を満たせば運転資金融資も利用可能です。資金繰りに余裕があるうちに相談窓口へ接触しておくことが重要です。

また、各都道府県ではICT導入補助(介護ロボット・見守りシステム等)や処遇改善に関連する助成制度も設けられています。国・都道府県・市区町村の補助金情報を定期的に確認し、活用できる制度を見落とさないようにしましょう。

施策4:事業の選択と集中・他法人との連携

中長期的に採算が取れないサービス類型は、廃止・縮小の判断も必要な場合があります。一方で、地域に不足しているサービス(看護小規模多機能・定期巡回随時対応型訪問介護等)への参入によって収益基盤を多角化する選択肢もあります。

法人単体で全サービスを維持するのではなく、他の介護法人との業務提携・共同採用・研修の共同実施も有力な経営戦略です。地域の複数事業者が連携することで、単体では困難なコスト削減と人材の安定確保が実現できます。

人材確保が経営安定の最重要課題である理由

上記の施策はいずれも重要ですが、根本に立ち返ると、介護施設の経営危機の多くは人手不足から始まっています。稼働率の低下も、職員の離職も、サービス品質の低下も、その出発点は「現場を支える人がいない」という問題です。

国内採用だけでは限界がある

介護職の有効求人倍率は一般職の平均をはるかに上回る水準が続いており、国内での人材確保は構造的に難しくなっています。求人票を出しても応募が来ない、来ても即戦力にならない、という状況に直面している施設は多いでしょう。

処遇改善加算の積極的な活用で給与水準を引き上げることは必要ですが、それだけで採用難が解消される状況にはありません。採用チャネルを多様化し、国内採用の限界を補う視点が求められます。

外国人介護士の活用という選択肢

こうした状況のなかで、外国人介護士の受入れを真剣に検討する施設が増えています。 出入国在留管理庁 のデータによると、特定技能「介護」の在留者数は2024年末時点で約6万人を超え、2年間で2倍近くに増加しています。

外国人介護士の受入れは「人手不足の一時的な補填」ではありません。日本語でのコミュニケーションができる即戦力を現場に迎え入れることです。特定技能「介護」の在留者は介護技能評価試験と日本語試験に合格しており、一定の介護知識と日本語力を備えています。

外国人介護士の受入れ全体の手順については 外国人介護士の受入れガイド を、費用の内訳については 受入れ費用の詳細 をご参照ください。

外国人介護士の定着が経営安定につながる

外国人介護士を採用した施設の多くが共通して経験するのが、定着した職員が現場の中核を担い始めることで生まれる好循環です。稼働率の向上・既存スタッフの負担軽減・サービス品質の安定が連動して改善し、経営体力の回復につながります。

ともにケアを運営するユアブライト株式会社では、17万人超の在日外国人データベースから、特定技能「介護」・在留資格「介護」の人材を介護施設にご紹介しています。初期費用・運用費用は0円〜、内定時のみ費用が発生する完全成功報酬型です。

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よくある質問

Q. 倒産した介護施設の利用者はどうなりますか?

倒産・廃業が決まった介護施設では、都道府県や市区町村が介入し、利用者の転居・サービス移行を支援します。ただし、代替施設が満床の場合は移行先が見つかるまで時間がかかることがあります。近隣施設が突然廃業した際に備え、地域の施設情報の把握と受け入れ体制の整備を平時から行っておくことが重要です。

Q. 経営悪化の早期サインはどこで見分けられますか?

以下の兆候が出ている場合は、早急に経営状況を点検してください。

  • 求人広告が常時掲載されている(慢性的な人手不足のサイン)
  • 稼働率・利用者数が前年比10%以上低下している
  • 月次の資金繰りが綱渡り状態になっている
  • 離職者が毎月のように続き、チームの安定性が崩れている

なお、社会福祉法人は財務諸表の公表義務があるため、法人番号から決算書を確認することも可能です。

Q. 経営危機に陥ったとき、最初に相談すべき機関はどこですか?

以下の相談窓口を活用できます。

  • 独立行政法人福祉医療機構(WAM):経営相談・融資相談(電話・メール受付あり)
  • 都道府県社会福祉協議会:経営改善アドバイザー派遣制度
  • 中小企業活性化協議会:再生支援・事業改善計画の策定支援
  • 中小企業診断士・社会保険労務士:収支分析・人件費の最適化

問題が深刻になる前に相談することで、再生の選択肢が広がります。金融機関からの借入で資金繰りを維持している段階であれば、WAM融資や経営改善計画の策定を早期に検討することをお勧めします。

Q. 外国人介護士を採用するとどれくらいの期間・費用がかかりますか?

すでに在日している特定技能「介護」人材を採用する場合、採用決定から就業開始まで最短1〜2か月が目安です。費用は紹介手数料(内定時のみ発生する成功報酬型)のみで、求人掲載費・運用費用は不要です。制度の詳細は 特定技能介護の制度解説 をご覧ください。

Q. 訪問介護事業所が特に倒産しやすいのはなぜですか?

訪問介護事業所は設備投資が少なく参入障壁が低い反面、売上がヘルパーの稼働時間に直結するため、1人でも退職すると即座に収益が落ちます。2024年度改定で生活援助の基本報酬が実質引き下げられたことも重なり、ヘルパーの採用難・高齢化が続く小規模事業所が特に厳しい状況に置かれています。

まとめ:経営危機は「人」の問題から始まる

介護施設の倒産・廃業が急増している背景には、人手不足・介護報酬の伸び悩み・物価高騰という3つの構造的課題があります。廃業まで含めると、業界全体で事業撤退の動きは加速しており、対岸の火事とは言えない状況です。

経営を守るためには、稼働率の改善・加算算定の最適化・公的支援の活用という短期的な施策と、人材確保の仕組みを整えるという中長期的な対策を並行して進めることが求められます。

特に人材確保については、国内採用だけに頼る時代は終わりを迎えつつあります。外国人介護士の受入れを選択肢の一つとして検討することが、経営安定への現実的な道筋の一つです。早期のうちに情報収集と体制整備を進め、人材難による経営悪化の連鎖を断ち切ってください。

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