介護施設の経営指標・KPI完全ガイド|施設長が押さえるべき設定と活用法

「数字を眺めていても、どこから手をつければいいかわからない」「毎月帳票を確認しているのに改善が進まない」という声を、介護施設の施設長や経営層からよく聞きます。その原因の多くは、KPI(重要業績評価指標)の設定と運用の仕組みが整っていないことにあります。

本記事では、介護施設の経営指標・KPIを財務・収益系、人材・労務系、ケアの質系の 3 カテゴリに整理し、施設の現場で使えるかたちで解説します。数値の目標水準の設定方法、月次・四半期・年次の PDCA サイクルへの落とし込み方、さらに人員不足と KPI の関係まで掘り下げていきます。ぜひ最後まで読んでみてください。

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なぜ今、介護施設に KPI 管理が必要なのか

2024 年度の介護報酬改定では処遇改善加算が再編され、2025 年度以降も人件費・光熱費の上昇が続くことが見込まれています。感覚や経験値だけの経営判断では、こうした外部環境の変化に対応しきれないのが現実です。

厚生労働省「令和 5 年度介護事業経営実態調査」によると、介護老人福祉施設(特養)全体の収支差額率は平均 2〜3% 台にとどまっており、わずかな稼働率の低下や加算の算定漏れが収益に直結します。KPI を設定・追跡することで「いつ・どの指標が・どのくらい悪化したか」を早期に把握でき、問題が小さなうちに手を打てるようになります。

施設が KPI 管理を始めると、こんなことが変わります。

  • 月次会議での議論が「なんとなく厳しい」から「どの数値が原因か」へシフトする
  • 管理職が問題を感覚ではなく数字で語るようになり、対策の精度が上がる
  • 銀行や法人本部への説明資料の説得力が増す

KPI は「評価のためのツール」じゃなく、「経営を加速させる情報ライン」だと捉えると、現場への導入がぐっとスムーズになります。

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カテゴリ 1:財務・収益系 KPI

稼働率(定員稼働率)

稼働率は収益の天井を決める最重要指標です。定員に対して実際に何人の利用者がいるかを示し、目標水準は 95% 以上が一般的です。ただし地域の需給バランスや施設種別によって実態は異なるため、まずは WAM の経営分析参考指標で同種・同地域の中央値を確認しましょう。

稼働率が低下している場合、原因は次の 3 つに集約されることが多いです。

  1. 待機者・紹介元の不足 → 地域包括支援センターや病院との連携強化
  2. 退所後の入居ギャップ → 入退所の予測管理と受入れ体制の整備
  3. 人員不足による受入れ抑制 → 採用・定着強化(後述)

収支差額率

収支差額率は「売上に占める利益の割合」であり、目標の目安は 5% 以上とされます。ただし改修費・設備投資の有無で年度ごとにブレが生じるため、複数年の平均値で判断することが重要です。

収支差額率が低い場合はまず人件費率と加算取得率を確認してください。この 2 つだけで原因の 7〜8 割が特定できることが多く、そこから対策を絞り込めます。

人件費率

人件費率は収益に占める人件費の割合で、介護施設では60〜65% が目安(サービス種別により異なる)です。70% を超えている場合は、収益側と費用側の両面からアプローチが必要です。「収益を上げられていないのか」「費用が膨らんでいるのか」を切り分けることが最初のステップになります。

加算取得率

施設が届出可能な加算のうち、実際に算定できている割合です。処遇改善加算・特定処遇改善加算・ベースアップ等支援加算は要件を満たしているのに算定していないケースがあります。少なくとも年 1 回は全加算の棚卸しを行いましょう。加算の算定漏れは収益機会の損失ですから、早めに確認するのがお得です。

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カテゴリ 2:人材・労務系 KPI

職員離職率

介護労働安定センターの調査によれば、介護施設の職員離職率は年間 15〜17% 前後で推移しています。1 名が離職するたびに採用・育成コストが数十万円発生することを考えると、離職率の 1% 改善が収益改善に直結します。

離職率を下げるには「なぜ辞めるのか」を定量的に把握することが出発点です。退職者面談の記録を蓄積し、理由別(人間関係・処遇・身体的負担・キャリア)に分類して対策を打つことが大切で、そのデータがないと同じ問題が繰り返されます。

職員充足率

採用計画上の必要人員に対して、現在の在籍人員が何 % を満たしているかを示す指標です。90% を下回ると既存職員の残業が常態化し、離職率の悪化につながります。充足率の低下は単なる採用の問題ではなく、財務指標全体に波及するので注意が必要です。

月平均残業時間

職員一人当たりの月平均残業時間です。20 時間未満を目標とする施設が多く、これを超えると職員の燃え尽き(バーンアウト)リスクが高まります。残業時間が突出している職種や時間帯を特定し、シフト調整や業務効率化を検討してください。「残業が多いのは仕方ない」と諦めてしまうと、採用市場での評判にも影響してきます。

有給取得率

有給取得率は70% 以上を目安として管理します。取得率が低い施設は人手不足か、組織文化として有給を取りにくい雰囲気があることが多く、採用市場での不利につながります。求職者はこの数値を意外と気にしています。

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カテゴリ 3:ケアの質系 KPI

介護事故発生率

転倒・誤嚥・服薬ミスなどをカテゴリ別に集計し、「利用者 100 人当たり月間発生件数」で管理します。業界統一の目標値はないため、自施設の過去 3 年データをベースラインとして設定し、前年比削減目標を立てましょう。カテゴリ別に見ることで、どのリスクに集中投資すべきかが見えてきます。

身体拘束率

入居者数に対する身体拘束実施者の割合です。介護報酬の減算リスクがあるだけでなく、ケアの質の象徴的指標として施設評価に直結します。「やむを得ない」事例も含めた記録を整備し、ゼロ拘束を目指したケアカンファレンスを月次で実施することを推奨します。

褥瘡発生率

在宅からの入居時・入院からの退院時の状態把握と定期的なスクリーニングが不可欠です。ブレーデンスケールなどのアセスメントツールを活用し、ハイリスク利用者へのケア計画を個別に立てることで発生率を管理できます。

利用者・家族満足度

年 1〜2 回のアンケートによる数値化が一般的です。総合満足度スコアの経年変化と、自由回答のネガティブコメント傾向を両方追うことで、改善優先テーマが見えてきます。スコアが下がっていなくても、自由回答に同じ不満が繰り返し出ているなら要注意のサインです。

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KPI の目標値の設定方法

目標値の設定には 3 つのアプローチがあります。施設の状況に合わせて使い分けるのがポイントです。

① 業界ベンチマーク方式

WAM の経営分析参考指標や厚生労働省の実態調査データを参照し、上位 25% 水準を目標として設定します。業種・規模・地域が類似した施設と比較できる点がメリットで、「業界でどこに位置しているか」を把握したい場合に適しています。

② 自施設トレンド方式

過去 3 年間の自施設データをベースラインに「前年比〇% 改善」という相対目標を設定します。外部比較が難しい指標(利用者満足度など)に向いており、「自分たちが着実に良くなっているか」を確認したい場合に有効です。

③ 課題起点方式

現場のヒアリングや問題分析から「解決すべき水準」を逆算します。たとえば「離職率を下げるために残業時間を月 20 時間未満にする」という設定です。現場が「なぜこの数字なのか」を理解しやすいため、チーム全体の納得感を得やすいアプローチです。

この 3 つを組み合わせて設定することで、現実的かつ挑戦的な目標値になります。

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PDCA サイクルへの組み込み方

月次:早期検知と即応

毎月末に稼働率・収支差額率・人件費率・離職者数・残業時間の 5 指標を集計し、前月比・前年同月比グラフで可視化します。ここでの目的はアクションではなく「異常の早期発見」です。前月比で 3 ポイント以上動いた指標があれば、翌月の管理会議で原因分析のアジェンダに載せてください。最初はスプレッドシートで十分で、ツールを整えすぎる前に運用を始めることが大切です。

四半期:原因分析と対策実施

四半期レビューでは、月次で検出した異常の原因分析と対策の進捗確認を行います。人件費率が高止まりしている場合は、夜勤帯・重度対応ユニットなど費用が突出している部署を特定し、現場管理職へのヒアリングを実施してください。加算取得状況の見直しも四半期単位で行い、算定漏れがある加算を次の介護報酬改定を待たずに対応することが収益改善の近道です。

年次:中期経営計画との接続

前年度の実績 KPI を集計し、3〜5 年後の目標値を設定します。人員不足が深刻なカテゴリ(夜勤帯・重度対応ユニット等)に対しては、外国人介護士の受入れを含む中期採用計画を策定します。施設設備の老朽化や入居者の重度化傾向を数値で把握し、設備投資・ケア体制変更の計画にも反映してください。

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人員不足と KPI の連動:外国人介護士受入れが指標改善に与える影響

介護業界の人手不足 は構造的なものであり、現場の欠員は複数の KPI を同時に悪化させます。

  • 欠員が続くと残業時間が増加し、離職率の上昇につながる
  • 離職率が上がると採用コストが増加し、人件費率を押し上げる
  • 人件費率が高まると収支差額率が下がり、財務余力を削る

この悪循環を断ち切る選択肢の一つが、特定技能介護をはじめとする外国人介護士の受入れです。受入れが KPI に与える影響の想定は次の通りです。

| KPI | 受入れ前(欠員状態) | 受入れ後(想定) | 主な理由 |

|---|---|---|---|

| 職員充足率 | 80〜90% | 95% 以上へ回復 | 夜勤帯・重度ユニットの補強 |

| 月平均残業時間 | 30〜40 時間 | 20 時間未満へ低減 | 既存職員の負担軽減 |

| 職員離職率 | 高止まり | 低減傾向 | 負担軽減による定着改善 |

| 稼働率 | 人員不足で抑制 | 定員稼働率の回復 | 利用者受入れ増加が可能に |

外国人介護士の受入れの全体像 については別記事で詳しく解説しています。 受入れにかかるコストの内訳 特定技能「介護」の制度概要 もあわせてご参照ください。

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よくある質問(FAQ)

Q. 介護施設の経営指標として最初に見るべき KPI はどれですか?

稼働率と収支差額率の 2 つから始めることをおすすめします。稼働率は収益の上限を決め、収支差額率は現在の収益性を示します。この 2 つが目標水準を下回っている場合、他の KPI の改善より先に原因分析が必要です。

Q. 人件費率が 70% を超えています。どう対応すればよいですか?

原因は大きく「①収益が少ない(稼働率低下・加算取り漏れ)」か「②人件費が大きい(人員過剰・時間外の常態化)」のどちらかです。まず収益側を確認し、加算の取り漏れや稼働率の改善余地を洗い出してください。構造的な欠員が原因なら、外国人介護士を含む採用計画の見直しが有効です。

Q. 介護事故発生率の目標値はどう設定すればよいですか?

業界一律の目標値はありません。自施設の過去 3 年間のデータをカテゴリ別(転倒・誤嚥・服薬ミス等)に集計してベースラインを設定し、「前年比〇% 削減」という相対目標で管理するのが実務的です。

Q. KPI 管理に使うツールは何が適切ですか?

まずスプレッドシート(Excel・Google Sheets)で稼働率・収支差額率・人件費率・離職率・残業時間の 5 指標を月次記録するシートを作り、前年同月比グラフを自動生成する仕組みを整えてください。その後、介護経営支援ソフト(ほのぼの NEXT 等)との連携を検討するのが段階的なアプローチです。

Q. WAM の経営分析参考指標はどこで確認できますか?

独立行政法人福祉医療機構(WAM)の公式サイト( 経営分析参考指標 )から、サービス種別・都道府県別の財務指標を無料で確認できます。自施設の数値と比較する際の一次情報として活用してください。

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まとめ:KPI の「設定」より「継続的な活用」が施設を強くする

介護施設の経営指標・KPI は、次の 3 カテゴリで体系的に管理することが重要です。

  • 財務・収益系: 稼働率・収支差額率・人件費率・加算取得率
  • 人材・労務系: 職員離職率・充足率・残業時間・有給取得率
  • ケアの質系: 介護事故発生率・身体拘束率・褥瘡発生率・利用者満足度

これらを月次・四半期・年次の PDCA に組み込み、数字の変化に早く気づいて対策を打つサイクルを回し続けることが長期的な施設の安定につながります。特に人材系 KPI の改善には、国内採用だけでは補えない構造的な人員不足を踏まえた中長期の採用戦略が必要です。「いつかやろう」と後回しにしているうちに、欠員が経営全体を圧迫する悪循環にはまってしまいます。今の KPI を確認するところから始めてみてください。

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「KPI を見ると明らかに人員不足なのに、採用に踏み切れない」「特定技能介護の費用感がわからない」というご相談を多くの施設長からいただきます。ユアブライトでは無料で相談を受け付けており、施設の状況に合わせて受入れの流れ・費用・期間・適性のある国籍をご案内します。

参考文献

ともにケア編集部
介護の現場に通い、施設長とスタッフの声をそのまま届ける取材チーム。制度よりも"温度"を大切にしています。
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