介護施設の経営指標と管理すべきKPI完全ガイド

介護施設経営を取り巻く現状

介護施設の経営環境は、近年大きく変わってきています。2024年度の介護報酬改定では、訪問介護の基本報酬が引き下げられる一方で、処遇改善加算の一本化が実施されるなど、施設種別によって収支への影響が異なる改定内容となりました。

独立行政法人福祉医療機構(WAM)の「2023年度介護事業経営概況調査」によると、多くの施設区分で1〜2ポイント以上の収支差率悪化が確認されています。単純に「利用者を増やせばいい」という時代は終わり、数字に基づく経営判断が欠かせなくなっています。

介護業界の人手不足 は深刻化しており、採用コストの上昇と離職による慢性的な欠員が稼働率を直撃しています。介護労働安定センター「令和5年度介護労働実態調査」によると、介護関係職種の離職率は14.4%(令和4年度実績)です。

全産業平均の11.3%(厚生労働省「令和4年度雇用動向調査」)を約3ポイント上回っており、採用・育成コストが他業種より積み上がりやすい構造になっています。こうした環境だからこそ、「感覚」ではなく「数字」で経営を動かすことが求められます。

本記事では、介護施設の経営指標として管理すべきKPIを財務・人材・サービス品質の3カテゴリに分けて解説します。目安値・計算方法・経営への影響を整理し、すぐに自施設へ応用できる内容を目指しています。

感覚経営から指標経営へ

稼働率が90%から87%に低下しても月次会議で見逃され、年度末に数百万円単位の収支悪化が判明した事例は珍しくありません。KPIを設定し、月次・四半期でモニタリングする体制を整えることは、リスクの早期発見と改善アクションの迅速化に直結します。

定員50名の特養で稼働率が1%低下すると、月間介護報酬は数十万円単位で減少します。この数字を即座に把握できる体制があるかどうかが、経営判断の質を分けることになります。

財務・収益系の主要KPI:稼働率・人件費率・収支差率

介護施設の経営指標のなかで、財務健全性を測る際に優先して管理すべき指標を解説します。

財務系KPIの概要

稼働率(入居率)

  • 目安: 特養・老健で85%以上、経営安定の観点からは90%台の維持を目標とする施設が多いです
  • 計算方法: 月間実利用者延べ人数 ÷(定員 × 稼働日数)× 100
  • 経営への影響: 定員50名の特養で稼働率が90%から85%に低下すると、月間介護報酬は100万円以上減少するケースがあります。稼働率はすべての収益の出発点です。週次でのモニタリングを推奨します

収支差率

  • 目安: 3〜5%が経営安定の目安です(WAM「2023年度介護事業経営概況調査」では特養平均が1%台まで低下)
  • 計算方法: (収入 - 支出)÷ 収入 × 100
  • 経営への影響: 収支差率が1%を下回ると、設備更新・賃金引き上げへの投資余力がほぼゼロになります。稼働率・人件費率と連動するため、3指標を同時に追うことが重要です

人件費率

  • 目安: 60〜70%(施設種別・規模・処遇改善加算の取得状況により変わります)
  • 計算方法: 人件費合計 ÷ 介護報酬収入(総収入)× 100
  • 経営への影響: 人件費率が70%を超え始めると、固定費に対する収支バランスが崩れやすくなります。処遇改善加算・特定処遇改善加算・ベースアップ等支援加算の取得状況によって適正値は変わるため、加算棚卸しと合わせて分析してください

介護報酬加算取得率

  • 目安: 要件を充足している加算は原則すべて取得する
  • 計算方法: 取得済み加算件数 ÷ 要件充足見込みの加算件数 × 100
  • 経営への影響: 加算取得漏れが月間数十万円規模で発生している施設は相当数あります。年1回以上の加算棚卸しにより、機会損失を防げます

稼働率低下の2大要因

稼働率が低下する背景には主に2つのパターンがあります。1つ目は「入居申込者数の不足(マーケティング・地域連携の課題)」、2つ目は「職員の欠員による受入れ停止(人材課題)」です。

後者は離職率と直結しており、財務指標と人材指標を必ずセットで管理する必要があります。この2大要因のどちらが原因かによって、打ち手がまったく変わってきます。

人材・労務系KPIの実践的な管理方法

財務指標の改善に最も大きなレバレッジが働くのが人材系KPIです。採用コストの適正化と定着率の向上は、収支差率と稼働率の両方に直接影響します。

人材系KPIの概要

離職率

  • 目安: 年間10%以下を中期目標とする施設が多いです(業界平均は14.4%:介護労働安定センター「令和5年度介護労働実態調査」)
  • 計算方法: 年間退職者数 ÷ 期初在籍者数 × 100
  • 経営への影響: 介護職員1名の退職が発生すると、求人広告・紹介手数料・採用面接の工数・OJT研修コストを合算すると50〜100万円相当が追加でかかるとされています。離職率を1ポイント改善するだけで、年間の採用コストを大幅に削減できます

有給取得率

  • 目安: 70%以上(労働基準法改正により年5日取得が義務化されています)
  • 計算方法: 実際の有給取得日数 ÷ 付与有給日数 × 100
  • 経営への影響: 有給取得率が低い施設は職員の疲弊・バーンアウトが進みやすく、離職率と強く連動します。シフト設計の見直しや応援体制の確立で改善できるケースが多いです

採用コスト(1名あたり)

  • 目安: 採用経路によって大きく異なります(ハローワーク:数万円、人材紹介:採用者年収の20〜30%が相場)
  • 計算方法: 採用活動にかかった総費用 ÷ 採用人数
  • 経営への影響: 「目に見えるコスト(広告費・紹介手数料)」と「目に見えないコスト(既存職員の面接・研修工数)」を合算して把握することが重要です。見えないコストを含めると実態の1.5〜2倍になるケースもあります

月平均残業時間(職種別)

  • 目安: 月間20時間以内を一つの基準とします(職種・シフト体系によって異なります)
  • 計算方法: 月間時間外労働時間の合計 ÷ 職員数(職種別に集計)
  • 経営への影響: 残業の常態化は割増賃金のコスト増加に加え、職員の健康・モチベーション低下を引き起こします。特定のユニットで残業が集中している場合は、シフト設計の見直しか増員が必要です

採用フェーズ別の指標管理

応募者数だけを採用KPIにしている施設は少なくありません。書類選考通過率・面接通過率・内定承諾率・着任率をフェーズ別に追うことで、どのフェーズに課題があるかが明確になります。

内定後の辞退が多い場合は、処遇・シフト・職場環境の説明が採用活動の中で不足している可能性があります。採用ファネルを可視化することで、改善すべきポイントが絞り込めます。フェーズごとの転換率を半期に一度見直す習慣をつけると、採用活動の精度が着実に上がっていきます。

サービス品質・利用者満足度に関わる指標

介護施設の経営指標は財務と人材だけではありません。サービス品質の数値化は、加算取得・法令対応・地域ブランドの維持に直結します。

品質系KPIの概要

褥瘡(じょくそう)新規発生率

  • 目安: 入居者1,000人あたりの新規発生件数を前年度比で継続的に減少させることを目指します
  • 計算方法: 施設内新規発生褥瘡件数 ÷ 延べ利用者数 × 1,000
  • 経営への影響: 褥瘡は医療費の増加・家族クレーム・行政指導リスクに直結します。定期的な体位変換記録の管理と褥瘡対策委員会の活動実績がKPI改善の背景にあります

転倒・転落事故発生件数

  • 目安: 前年同月比での減少傾向を継続的に維持する
  • 計算方法: 月間転倒・転落事故報告件数(延べ利用者数で除して比率化)
  • 経営への影響: 転倒事故は訴訟リスクと介護保険加算審査に影響します。ヒヤリハット報告の活性化と記録の標準化が、件数削減の基本的なアプローチです

苦情・重大事故件数

  • 目安: 継続的な減少傾向を維持し、増加傾向への早期対処を徹底する
  • 計算方法: 月間苦情受付件数・重大事故報告件数(介護保険法に基づく報告義務対象)
  • 経営への影響: 苦情件数は職員対応品質と直結します。増加傾向にある場合は、接遇研修・シフト見直し・コミュニケーション体制の強化が優先課題です

利用者・家族満足度スコア

  • 目安: 年1回の定期調査で総合評価4.0/5.0以上(施設独自の基準設定を推奨)
  • 計算方法: 定期アンケートの平均スコアまたはNPS(Net Promoter Score)
  • 経営への影響: 地域での評判と紹介入居率に影響します。スコアを数値で追うことで、設備投資・人材育成の優先順位を根拠を持って決定できます

外国人介護士の受入れが経営指標改善に与える影響

外国人介護士の受入れ を介護施設の経営指標改善の文脈で捉えている施設はまだ多くありませんが、離職率・稼働率・採用コストのすべてに影響が出ているケースが増えています。

離職率への寄与

特定技能「介護」の在留資格保有者は、介護技能評価試験・日本語試験をクリアした上で就労しています。入職後のミスマッチが起きにくい傾向があり、就労ビザの更新を前提とした長期雇用志向と主体的なキャリア意識が在籍継続につながるケースが多いです。

弊社が紹介した施設の複数事例では、日本人職員の平均在籍期間と比較したとき、外国人介護士の離職率が低い傾向が確認されています。

稼働率への寄与

深刻な欠員が続くと、安全基準を満たすために受入れを一時停止せざるを得ない局面が生じます。外国人介護士の採用によって通常シフトを維持し、稼働率90%超を継続できた施設事例は複数あります。

人員計画の中で外国人介護士のポジションを明確に位置づけることで、稼働率の安定に寄与します。外国人材の活用は「補完的な選択肢」ではなく、人員計画の柱の一つとして捉えることが経営的に合理的です。

採用コストの管理

外国人介護士の受入れコスト が不透明で判断に迷う施設長は少なくありません。ともにケアを運営するユアブライト株式会社では、完全成功報酬型(内定時のみ課金、初期費用・運用費用0円〜)の紹介サービスを提供しており、採用コストを事前に予算化しやすい体制です。

特定技能介護の制度 を理解した上で在留期間・支援機関のコストを経営指標に組み込むことで、外国人介護士の採用を「感情的な判断」から「数字に基づく経営的な選択」に変えられます。

KPI管理の実践ステップと見直しサイクル

KPIを設定しただけでは経営は変わりません。現場に根付く指標管理の仕組みを段階的に構築することが重要です。

  1. 最初は3〜5本に絞る: まず「稼働率・人件費率・離職率・収支差率」の4本からスタートします。指標が多すぎると管理業務が負担になり、継続されなくなります。
  2. ベースラインを設定する: 目標値を設定する前に、直近12か月の自施設実績データを集計します。WAMや厚生労働省が毎年公表する業界平均と自施設の実績を並べることで、どの指標が乖離しているかが明確になります。
  3. モニタリングサイクルを確立する: 稼働率・入退居状況は週次、人件費率・離職率・採用コストは月次、収支差率・満足度スコアは四半期でのレビューが目安です。四半期末には目標値の修正と改善施策の優先順位付けを行います。
  4. 職員全体と数字を共有する: 経営KPIを経営層だけが知る数字にしてはいけません。月次で主要KPIの傾向を全職員に開示し、何が改善されて何が課題かを可視化することで、現場の主体的な改善行動を引き出せます。
  5. 外部ベンチマークを定期的に参照する: 厚生労働省と独立行政法人福祉医療機構(WAM)は毎年、介護事業者向けの経営データを公表しています。自施設の指標を業界平均と比較することで、施設固有の問題か業界全体のトレンドかを判断できます。補助金・加算申請の優先順位決定にも活用できます。

KPI管理ツールの選び方

KPI管理にどんなツールを使うかも、継続性に大きく影響します。まずはExcelやGoogleスプレッドシートで十分です。重要なのはツールではなく、「誰が・いつ・どの指標を」入力・確認するかのルール化です。

施設規模が大きくなると、介護ソフトウェアとKPIダッシュボードを連携させる方法も有効です。稼働率や入退居状況をリアルタイムで把握できるようになり、経営会議の質が上がります。ツール選定よりも先に「どの指標を管理するか」を決めることが、うまくいく施設の共通点です。

よくある質問(FAQ)

Q. 稼働率の適正目標はどのくらいに設定すればよいですか?

特別養護老人ホームでは90%以上、介護老人保健施設では88%以上を目標とする施設が多いです。ただし、地域の待機者状況・要介護度構成・職員体制によって適正値は変わります。WAMの介護事業経営概況調査で同規模・同種別の施設平均と比較し、目標設定の参考にすることをお勧めします。

Q. 人件費率が70%を超えた場合、どのような改善策が有効ですか?

人件費の内訳を「正規職員給与」「残業代・割増賃金」「派遣費用」「処遇改善加算による増加分」に分解して原因を特定することが最初のステップです。残業代や派遣費用が押し上げている場合は、シフト設計の見直しと直接雇用への切り替えが有効です。処遇改善加算の未取得がある場合は、取得申請を優先することで収入増加分が人件費増加を相殺します。

Q. 定員30名未満の小規模施設でもKPI管理は必要ですか?

規模が小さいほど、1指標の変動が経営インパクトとして大きく現れます。定員30名の施設で2名の欠員が生じれば稼働率は93%から86%前後に低下し、月間収支に直結します。「稼働率・人件費率・離職率」の3本に絞ったシンプルな管理から始めることを推奨します。

Q. 外国人介護士を受け入れることで離職率は改善しますか?

一概には言えませんが、特定技能「介護」の在留資格を持つ外国人介護士は長期雇用を前提とした就労意識が高く、日本人職員の平均在籍期間と同水準かそれ以上の定着率を示す事例が増えています。受入れ後の母国語サポート・定期面談など、フォロー体制の充実が定着率向上のカギです。

外国人介護士の採用を経営改善の選択肢として

「人手不足による稼働率低下」「採用コストの高止まり」「離職率の改善が見えない」といった課題をお持ちの施設長からのご相談を、ユアブライト株式会社は継続的にお受けしています。

特定技能「介護」・在留資格「介護」・技能実習修了者など即戦力の外国人介護士を、17万人超の在日外国人データベースからご紹介しています。初期費用・運用費用は0円〜、内定時のみ費用が発生する完全成功報酬型です。

▶ 介護人材の採用についてまず相談する(無料)

電話でのご相談は 03-6908-6143(平日 9:00〜18:00)まで。

参考資料

ともにケア編集部
介護の現場に通い、施設長とスタッフの声をそのまま届ける取材チーム。制度よりも"温度"を大切にしています。
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