介護職員の離職防止施策|施設長が実践する定着率改善の具体策

この記事でわかること

  • 介護職員の離職率の実態と、1 人の離職が施設経営に与えるコスト構造
  • 「なぜ辞めるか」を一次データから読む離職原因の優先順位
  • 施設長・採用担当がすぐ動ける離職防止施策のチェックリストと処遇改善加算の活用法

「求人を出すたびにコストがかさむ。やっと採用できたと思ったら半年で辞める。」介護施設の施設長・人事責任者から、こうした声を繰り返し受けます。採用は一時的な解決策にすぎず、定着率を高める離職防止施策を同時に進めなければ、経営の体力が削られ続けます。

公益財団法人 介護労働安定センター「2023 年度 介護労働実態調査」によると、介護職員の離職率は 14.4% です。全産業平均(厚生労働省「令和 4 年雇用動向調査」15.0%)と数字だけ比べると近い水準に見えますが、介護職は 慢性的な人員不足・採用コストの高さ・夜勤を含む過重な業務負荷 が重なるため、1 人の離職が施設に与えるダメージは他産業とは異なる深刻さをはらみます。

本記事では、現場の実情に即したデータと、施設規模を問わずすぐ実行できる具体的な離職防止施策を整理します。

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介護職員の離職コストを正確に把握する

「率」ではなく「金額」で考える

14.4% という数字を「他産業と変わらない」と見るのは危険です。離職コストの構造を把握すると、問題の深刻さが見えてきます。

採用広告・紹介手数料

  • 目安: 30 万〜80 万円(人材紹介会社経由なら採用者年収の 20〜30%)
  • 内容: 求人媒体掲載料、スカウト費用、人材紹介手数料
  • 施設への影響: 年間 3〜5 名の離職で採用コストだけで 150 万円超になるケースがある

研修・OJT コスト

  • 目安: 1 人あたり 20 万〜50 万円
  • 内容: 先輩職員の指導工数、マニュアル整備費、ユニフォーム・備品支給
  • 施設への影響: 指導担当職員のサービス時間が減り、現場品質の低下につながる

残業・シフト穴埋めコスト

  • 目安: 離職後の補填期間中に月 5 万〜15 万円
  • 内容: 残業手当、派遣・スポット人材の活用費
  • 施設への影響: 残された職員への負荷集中が連鎖離職を招くリスク

有形・無形のコストを合算すると、介護職員 1 人の離職で 100 万〜200 万円規模の損失 が発生するとも試算されます。離職率 14.4% は「許容できる水準」ではなく、毎年経営体力を削る構造的な課題です。

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介護職員が辞める本当の理由

「給与だけ上げれば解決する」という誤解

離職防止施策を考えるとき、多くの施設が最初に「給与の引き上げ」に手を伸ばします。もちろん処遇改善は必要です。しかし公益財団法人 介護労働安定センター「2023 年度 介護労働実態調査」における退職理由の上位は、以下の通りです(複数回答、介護職員対象)。

退職理由 1 位:職場の人間関係への不満(約 34%)

  • 上司・同僚との摩擦だけでなく、「意見を言っても無視される」「評価の根拠がわからない」という組織風土への不満が多い
  • 特にユニット型特養では、ユニットリーダーのマネジメント力が定着率に直結する

退職理由 2 位:法人・施設の理念や運営方針への不満(約 28%)

  • 「この施設は利用者より効率を優先している」と職員が感じた瞬間、離職意向は急上昇する
  • 方針の透明性・職員への説明責任が問われる

退職理由 3 位:給与・労働条件への不満(約 26%)

  • 夜勤手当や残業代の不透明さ、昇給の見通しの悪さが長期定着を妨げる
  • 「頑張っても給与が変わらない」という閉塞感が問題の本質

退職理由 4 位:身体的負担(腰痛・疲労)(約 24%)

  • 移乗介助による腰痛は入職 1〜2 年の若手職員に集中する
  • 福祉用具(スライディングシート・リフト等)が未整備の施設で特に顕著

この構造から読み取れるのは、「人間関係・評価・理念」というソフト面の問題が、給与より先に職員を追い出している という実態です。給与改善は必要ですが、それだけでは根本原因に触れていません。

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受入れ施設の失敗パターンと回避策

介護施設の離職防止施策を現場で支援してきた経験から、繰り返し見られる失敗パターンを整理します。

失敗パターン 1:「入職後 3 か月だけ」手厚い

多くの施設が採用直後の研修には力を入れますが、3 か月を過ぎると職員への関与が薄れます。介護職員の離職は 入職後 1〜2 年目に最も集中 します(介護労働安定センター「2023 年度調査」)。入職直後だけでなく、6 か月・1 年・2 年の節目に面談を設定し、キャリア目標・悩み・業務負荷を定期的に確認する仕組みが不可欠です。

回避策: 入職時研修だけでなく、6 か月・1 年の定期面談を就業規則または内規に明記し、人事カレンダーに組み込む。

失敗パターン 2:評価が「主任の主観」になっている

給与や昇格の根拠が言語化されていない施設では、「なぜあの人が先に昇給したのかわからない」という不信感が静かに広がります。20〜30 代の若手職員にとって、評価の透明性は定着判断に直結します。

回避策: 職務別のコンピテンシー評価シートを作成し、半期ごとに上司・本人が確認する評価面談を制度化する。「何ができたら昇給するか」を入職時に言語化して伝えることが、長期定着への投資になります。

失敗パターン 3:夜勤が特定職員に固定化している

夜勤担当が固定化すると、該当職員の身体的・精神的疲弊が急速に進みます。月 4〜5 回が許容ラインとされる夜勤が、欠員補填で 8〜10 回になる施設は珍しくありません。疲弊した職員が退職し、さらに残存職員への負荷が増える悪循環が生まれます。

回避策: 夜勤回数の上限(目安:月 5 回以内)を就業規則に明示し、夜勤可能なパート・非常勤を平時から複数名確保しておく。

失敗パターン 4:外国人介護士への「日本語ができれば大丈夫」という過信

外国人介護士の早期離職は日本語力の問題ではなく、職場のコミュニケーション設計の問題 であるケースがほとんどです。申し送りが口頭のみ、業務手順書が日本語のみ、休暇申請が電話のみ、といった構造が孤立を生みます。具体的な改善策は 外国人介護士とのコミュニケーション改善 をご参照ください。

回避策: 申し送りノートのフォーマット統一、業務マニュアルのやさしい日本語化、休暇申請の書面・アプリ化が有効です。

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採用担当者が見落としやすいポイント

離職防止は採用の段階から始まっている

定着率の改善を考えるとき、採用後の施策だけに目を向ける担当者は少なくありません。しかし入職後の離職の多くは、採用段階でのミスマッチが原因です。

求人票のリアリティを上げる

「アットホームな職場」「やりがいあり」だけの求人票で集まった応募者は、入職後のギャップで早期に退職します。夜勤回数・入浴介助の頻度・ユニット規模・認知症対応の有無・職員構成比を明示することで、「ミスマッチ採用」を構造的に減らせます。

内定後の「リアリティ・チェック」面談

内定後に「身体的につらいと感じる可能性のある業務」「夜勤の実際の頻度」を率直に伝える面談を設けている施設は、入職後 1 年定着率が高い傾向があります(ユアブライトが支援した施設のヒアリングより)。事前に職場を正確に知ってもらうことは、長期定着への先行投資です。

外国人介護士受入れで見落とされるキャリア設計

介護業界の人手不足 が深刻化するなか、 特定技能介護 や在留資格「介護」の外国人介護士を採用する施設が増えています。しかし「受け入れたら定着するはず」という前提で動くと、入職後 1 年以内の転職・帰国につながるケースがあります。

採用段階でキャリアパス(例:特定技能取得から介護福祉士国家資格取得まで 5〜7 年の見通し)を共有し、生活インフラの整備状況を確認しておくことが、外国人介護士の定着を左右する重要な事前準備です。

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離職防止施策の実務チェックリスト

図解イメージ:「離職防止施策の優先度マトリクス(即効性 × 投資規模)」を本記事の図解候補として掲載予定。

以下のチェックリストは、施設長・採用担当が離職防止施策の現在地を確認するための実務ツールです。3 か月に 1 回、全項目を見直すことをお勧めします。

A. 職場環境・労働条件(ハード面)

  • 夜勤回数の上限が就業規則または内規に明記されている
  • 有給休暇取得率が直近 1 年で 50% 以上である
  • 腰痛予防のためのリフト・スライディングシートが現場に整備されている
  • 職員向けの相談窓口(内部担当者または外部 EAP)が整備されている
  • 給与テーブル・昇給基準が文書化され、職員に開示されている

B. 組織・マネジメント(ソフト面)

  • 入職後 6 か月・1 年の定期面談が制度として実施されている
  • 半期ごとの評価面談で、評価根拠を上司が言語化している
  • 新入職員に担当のプリセプター(指導担当者)が明確に設定されている
  • 退職者の退職理由を書面またはヒアリングで把握・記録している
  • 施設長が月 1 回以上、全職員に個別に声をかける機会がある

C. 外国人介護士向け(受入れ施設の場合)

  • 申し送りノートのフォーマットが統一され、口頭依存になっていない
  • 業務マニュアルがやさしい日本語または多言語で整備されている
  • 休暇・欠勤申請が書面またはアプリで完結できる
  • 在留カードの更新時期を施設が把握し、更新前にリマインドしている
  • 母国語を話せる支援者(登録支援機関・社内担当者)へのアクセス方法が共有されている

目安として、10 項目以上にチェックが入る施設は離職防止の基盤が整っています。5 項目以下の場合は、まず B の「マネジメント・評価制度改善」から着手することが優先度の高い施策です。

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処遇改善加算を使い切れていますか

財源があるのに給与に反映できていない施設の実態

離職防止施策の中で、見落とされやすいのが 処遇改善加算の適切な活用 です。厚生労働省が設けた介護職員処遇改善加算・特定処遇改善加算・ベースアップ等支援加算は、2024 年度介護報酬改定で「介護職員等処遇改善加算」に一本化されました。

算定区分・施設種別によって異なりますが、最大加算率は訪問介護で 24.5%、特別養護老人ホームで 14.1% です(厚生労働省「2024 年度介護報酬改定の概要」)。この財源を給与に適切に反映することで、離職防止に直結する処遇改善が可能になります。

注意が必要なのは、「加算を算定しているが職員への還元率が低い」施設が一定数存在する という点です。算定のための計画書・実績報告書では、「どの職種に・いくら配分したか」の根拠が求められます。未活用・過少配分の状態は職員の不信感につながるだけでなく、行政指導のリスクにもなります。

処遇改善加算の算定要件・手続きの詳細は 厚生労働省「介護職員処遇改善加算について」 をご参照ください。

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外国人介護士の定着を離職防止の柱に加える

受入れ後に「放置」すると既存職員も疲弊する

外国人介護士の受入れ を「人手不足の応急措置」として位置づけると、計画なき受入れが既存日本人職員の負担を増やし、施設全体の定着率が悪化する悪循環に陥ります。外国人介護士の定着を施設の人材戦略に組み込むための実務上のポイントは以下の 3 点です。

採用前に設計すべき 3 点

  1. キャリアパスの共有: 特定技能介護から介護福祉士国家資格取得まで、5〜7 年の見通しを採用説明会で提示する。目標を持って働ける環境が長期定着の土台になります。
  2. 住居・生活インフラの整備: 特定技能外国人には住居確保の支援義務があります。施設から 30 分以内・生活費が月収の 30% 以内に収まる物件確保が実務上の目安です。
  3. 既存職員への事前説明: 外国人介護士の受入れを突然告知すると、コミュニケーション摩擦や業務分担への不公平感から既存職員が退職するケースがあります。背景・期待役割・困ったときの連絡先を事前研修として共有することが、施設全体の定着率を守ります。

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介護現場でよくある相談

Q. 給与を上げれば離職は止まりますか?

給与改善は必要条件ですが、十分条件ではありません。介護労働安定センターの調査では、退職理由の 1 位は「職場の人間関係」であり、「給与・労働条件への不満」は 3 位です。給与だけを引き上げても、評価の不透明さや夜勤の固定化が残れば離職は続きます。本記事のチェックリストを活用し、ハード・ソフト両面から同時に手を打つことが重要です。

Q. 小規模施設でも処遇改善加算は算定できますか?

算定要件を満たす事業所であれば、施設規模に関係なく算定できます。ただし計画書・実績報告書の作成が必要なため、事務負担が課題になる小規模施設も多いです。都道府県の介護保険担当窓口または社会保険労務士に相談することをお勧めします。加算の最新の算定要件は公益財団法人 介護労働安定センター でも情報が整理されています。

Q. 外国人介護士を採用したら日本人職員が辞めると聞きました。本当ですか?

事前準備なしに外国人介護士を受け入れると、コミュニケーション摩擦や業務分担の不公平感から既存職員が退職するケースは実際にあります。一方、受入れ前の職員説明・多言語マニュアル整備・定期面談の仕組みを整えた施設では、外国人介護士の存在が職場の多様性を高め、日本人職員の定着率が向上した事例も複数あります。準備の質が結果を左右します。

Q. 退職者が出るたびに求人を出しています。根本的な解決方法はありますか?

まず「なぜ辞めたか」を把握する退職者ヒアリング(退職時面談またはアンケート)を実施していない施設は、そこから始めてください。原因を仮説ではなくデータで把握することが、施策の優先順位付けの前提です。退職者からの回答が得られない場合、在職中の職員を対象とした匿名サーベイでも構いません。「退職理由の傾向を掴んでいない施設は、同じ原因で繰り返し人が辞める」これが現場でよく見られる構造的な問題です。

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まとめ:離職防止は「採用より費用対効果の高い投資」

介護職員の離職防止施策は、採用コストと比較すると圧倒的に費用対効果が高い投資です。1 人の離職で発生するコストが 100 万〜200 万円であるのに対し、定期面談の制度化・評価基準の言語化・処遇改善加算の適正配分といった施策は、年間数十万円規模の運営費用で実現できます。

施策の優先順位の考え方

  1. 即効性が高い施策: 退職者ヒアリングの仕組み化、定期面談の設定、夜勤回数上限の明文化
  2. 中期的に効果が出る施策: 評価制度・給与テーブルの透明化、処遇改善加算の適正活用
  3. 長期的な土台となる施策: 理念共有・組織風土の改善、外国人介護士の計画的受入れと定着支援

離職防止の取り組みに限界を感じている施設、または人員補充と並行して定着率向上を進めたい施設は、外国人介護士の計画的受入れを選択肢のひとつとして検討することをお勧めします。

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介護の現場に通い、施設長とスタッフの声をそのまま届ける取材チーム。制度よりも"温度"を大切にしています。
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