介護 BCP(業務継続計画)策定完全ガイド|2024年義務化から外国人スタッフ対応まで

「BCP を作らなければならないとはわかっている。でも、何から手をつければいいのかが見えない」。ともにケアへの問い合わせで、施設長・人事担当者からこの言葉を最もよく聞くのが、介護 BCP に関する相談です。

2024 年 4 月 1 日をもって、業務継続計画(BCP)の策定はすべての介護保険サービス事業者に対する法的義務となりました。策定済みであっても「ひな形を埋めただけで研修・訓練が追いついていない」「外国人スタッフへの周知が手つかず」というケースは少なくありません。

この記事では、厚生労働省の策定指針に基づき、自然災害 BCP・感染症 BCP それぞれの実務手順と、外国人介護士を BCP に組み込む際の多言語対応を、施設長・人事担当者の視点で具体的に解説します。

この記事でわかること

  • 介護 BCP の義務化対象と 2024 年度以降の法的要件
  • 自然災害 BCP・感染症 BCP それぞれの策定ステップ
  • 外国人スタッフへの多言語避難誘導と情報共有の実務

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介護 BCP(業務継続計画)とは?義務化の経緯と法的根拠

介護 BCP(Business Continuity Plan)とは、地震・洪水などの自然災害や新型コロナウイルスのような感染症の流行が発生した際に、「利用者へのサービスをどのように継続するか」を事前に文書化した計画です。

義務化の経緯

2021 年度の介護報酬改定で、厚生労働省はすべての介護保険サービス事業者に対して BCP の策定を求め、3 年間の経過措置を設けました。2024 年 3 月 31 日で経過措置が終了し、同年 4 月 1 日から BCP の策定・研修・訓練の実施が省令上の義務となっています( 厚生労働省「介護施設・事業所における BCP 策定支援」 )。

義務の 3 点セット

  • BCP の策定(自然災害用と感染症用の 2 種類を別々に)
  • 策定した BCP に基づく研修の実施(年 1 回以上)
  • 策定した BCP に基づく訓練・シミュレーションの実施(年 1 回以上)

未策定時のペナルティ

2024 年度介護報酬改定で「業務継続計画未策定減算」が新設されました。BCP を策定していない事業所は、所定単位数の 3% が減算されます。都道府県の実地指導においても「指導事項」として記録され、新規指定や更新審査の審査に影響する可能性があります。

対象サービス種別は、訪問介護・通所介護・通所リハビリテーション・特別養護老人ホーム・介護老人保健施設・認知症対応型共同生活介護(グループホーム)など、介護保険法に基づくほぼすべての事業者です。小規模の訪問介護事業所も例外ではありません。

介護業界全体の人手不足が深刻化するなか( 介護人手不足の現状と外国人材の可能性 も参照)、緊急時に「誰が・何をするか」を明確化しておくことは、スタッフの安心感にもつながります。

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自然災害 BCP の策定手順|6 ステップで進める現場実務

厚生労働省が公開しているひな形は「基本方針」「被害想定」「優先業務」「体制整備」「資源管理」「見直し」の 6 章構成です。施設が実際に取り組むべきステップを以下に整理します。

ステップ 1:立地のリスクアセスメント

自施設の立地する市区町村のハザードマップを確認し、洪水・土砂災害・地震(液状化を含む)のリスクを把握します。ハザードマップは各自治体の Web サイト、または国土交通省の「 ハザードマップポータルサイト 」から入手できます。浸水想定区域に立地する場合は、避難計画に「垂直避難か水平避難か」の判断基準を明記します。

ステップ 2:優先業務の特定

災害発生直後から 72 時間・1 週間・1 か月のフェーズごとに「最低限継続しなければならない業務」を洗い出します。特別養護老人ホームや老健では、食事・服薬・排泄介助・医療処置が最優先です。書類作成や定例会議は一時停止できる業務として区別し、縮小継続モードを定義します。

ステップ 3:非常時の指揮体制と連絡網の整備

  • 施設長不在時の指揮命令系統(代理者の氏名・役職・連絡先)
  • 夜間・休日の初動担当者の役割と連絡先
  • 行政・医療機関・協定施設の連絡先一覧

連絡先リストは紙と電子の両方で保管し、停電時でも参照できる状態を確保します。

ステップ 4:利用者の避難・移送計画

車いす対応の避難経路と近隣の受入施設を事前に確保します。医療依存度が高い入居者については個別避難計画を作成し、家族・担当ケアマネジャーとも共有します。

ステップ 5:物資・資機材の備蓄計画

72 時間分の食料・飲料水・医薬品・紙おむつの備蓄量と補充サイクルを定め、非常用発電機の燃料確保と定期点検の担当者を明記します。

ステップ 6:訓練と見直しのサイクル設計

年 1 回以上の避難訓練計画と、BCP 文書の年次見直しスケジュールを計画に組み込みます。訓練後に「気づき事項」を記録し、次回改定に反映するサイクルが BCP の実効性を高めます。

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感染症 BCP の策定手順|コロナ禍の教訓を制度に落とし込む

感染症 BCP は、自然災害 BCP とは別に策定が求められます。新型コロナウイルス感染症の流行(2020 年以降)は、介護施設における感染症 BCP の必要性を痛感させた出来事でした。

厚生労働省の感染症 BCP ひな形は「平時の対応」「発生時の対応」「業務継続のための体制」「連携体制」の 4 章構成です。策定において特に重要な点を整理します。

平時の備え

  • 施設内の衛生管理ルール(手洗い・換気・清掃頻度)の文書化
  • 感染防護具(マスク・ガウン・手袋)の最低在庫量と調達先の確保
  • 職員の健康管理ルール(有症状時の出勤停止基準)の明文化

発生時の初動

職員から陽性者が発生した場合、当日中に当該職員の業務割り当てを変更し、濃厚接触者の特定と保健所への報告を行います。「誰が何日後に現場復帰できるか」を想定したシフト再配置ルールを事前に定めておくことが、サービス継続の鍵です。

厚生労働省の調査(令和 4 年度老人保健健康増進等事業)では、感染症クラスターが発生した施設の約 4 割が「スタッフの確保」を最大の困難として挙げています。

縮小継続モードの定義

感染拡大で職員が 3 割欠員となった場合でも継続できる業務セットを「縮小継続モード」として定義します。「身体介護の優先度を保ちつつ、記録業務は翌日まとめて入力する」など、具体的なルールが実効性を左右します。

外部との連携体制

平時から近隣の医療機関・訪問看護ステーション・他の介護施設との相互応援協定の締結を検討します。感染発生時に外部から人員支援を受けるためには、事前の関係構築が不可欠です。

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外国人介護士を BCP に組み込む|多言語対応と避難誘導の実務

外国人スタッフが増える介護現場において、BCP への組み込みは見落とされがちな論点です。ともにケアを運営するユアブライトが接する施設からは、「非常時に外国人スタッフへ何をどう伝えればよいかわからない」という声が少なくありません。

課題 1:日本語の BCP 文書が理解しにくい

BCP のひな形は行政文書であり専門用語が多く、日本語学習者には難解です。「避難」「引き渡し」「縮小継続」といった語句を、やさしい日本語(ルビ付き)か母国語に翻訳したサマリーシートを別途作成することを推奨します。

  • ベトナム語・インドネシア語・ネパール語・ミャンマー語で「緊急避難の流れ」を 1 枚にまとめたフローチャートを休憩室・更衣室に掲示する施設が増えています。
  • 翻訳精度は母国語スタッフや登録支援機関に確認を依頼すると安心です。

課題 2:緊急連絡体制への組み込み

外国人スタッフの緊急連絡先(本人の日本国内携帯番号と、本国在住家族の連絡先)を BCP の連絡先リストに登録します。在留カードのコピーとパスポートの写しを施設側で保管し、災害時の身元確認や在留資格に関する手続きをスムーズに進められる体制を整えます。

大規模災害時には在留期間の特例措置が講じられることがあります。最新情報は出入国在留管理庁(入管庁)の公表資料を確認してください。

課題 3:夜勤帯の避難誘導

夜勤時間帯に外国人スタッフが少人数で施設を担当するケースでは、避難指示を正確に理解し、利用者を適切に誘導できるかが重要です。実践的な対策は次の 3 点です。

  1. 避難経路と集合場所を矢印で示した「絵でわかる避難マップ」を各フロアに掲示する
  2. 避難訓練に外国人スタッフを必ず参加させ、役割を体験的に習得させる
  3. 訓練後のフィードバックを母国語または通訳を通じて補足説明する

外国人介護士が BCP に参加し、日本人スタッフとともに非常時に動ける体制こそが真の業務継続計画といえます。受入れ全体の流れは 外国人介護士の受入れ実例と受入れ手順 、日常的なコミュニケーション構築については 外国人介護士とのコミュニケーション戦略 もあわせてご参照ください。

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BCP の研修・訓練と定期見直しの進め方

BCP を「策定して終わり」にしないために、研修・訓練・見直しのサイクルを制度化することが重要です。

研修の実施方法

年 1 回以上の研修は、BCP の内容(体制・連絡先・手順書)を全スタッフに周知する場として機能させます。新入職員には入職オリエンテーションで BCP の基本を説明し、外国人スタッフにはやさしい日本語版または多言語版の資料を使用します。

研修のポイントは「記憶させる」ことより「探せる状態にする」こと。非常時に誰もが即座に開ける場所に BCP 文書を置き、閲覧方法を全員が知っていることのほうが実効性は高まります。

訓練の実施方法

机上演習と実地訓練を組み合わせることを推奨します。

  • 机上演習:「台風の接近で翌朝から避難が必要になった」というシナリオを設定し、指揮命令系統と連絡手順を確認する
  • 実地訓練:実際に避難経路を歩き、車いす利用者の移送を体験する

訓練後は「できたこと」「改善が必要なこと」を記録し、BCP 文書の改定につなげます。

定期見直しのタイミング

少なくとも年 1 回の見直しに加え、次のいずれかが生じた際は随時改定を検討してください。

  • 施設の立地・建物・設備に変更があったとき
  • 職員の大幅な入れ替えがあったとき(外国人スタッフの入退職を含む)
  • 自然災害や感染症の経験から改善すべき点が明らかになったとき
  • 厚生労働省からのガイドライン更新があったとき

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介護 BCP 策定チェックリスト|施設長が確認すべき 12 項目

以下の項目を用いて、貴施設の BCP の現状を点検してください。

基盤整備

  • 自然災害 BCP を策定済みである
  • 感染症 BCP を策定済みである
  • 両 BCP が最新版に更新されており、発行日が明記されている
  • BCP の保管場所(紙・電子両方)を全スタッフが把握している

体制・連絡

  • 非常時の指揮命令系統(施設長不在時の代理も含む)が明確である
  • 行政・医療機関・近隣施設の緊急連絡先リストが最新の状態である
  • 外国人スタッフを含む全職員の緊急連絡先が登録されている

資源・物資

  • 72 時間分の食料・飲料水・医薬品・衛生用品の備蓄量を確認済みである
  • 非常用発電機の燃料と定期点検記録が管理されている

研修・訓練

  • 直近 12 か月以内に BCP に基づく研修を実施した記録がある
  • 直近 12 か月以内に避難訓練または机上演習を実施した記録がある

外国人スタッフ対応

  • BCP の要点を多言語(やさしい日本語を含む)で伝える資料が整備されている

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よくある質問(FAQ)

Q. BCP を策定していない場合、どのような処分がありますか?

2024 年度介護報酬改定で「業務継続計画未策定減算」が新設されており、BCP 未策定の事業所は所定単位数の 3% が減算されます。加えて、都道府県の実地指導で「指導事項」として記録されます。改定審査や新規指定申請の審査に影響する可能性があるため、速やかな策定を推奨します。

Q. 小規模の訪問介護事業所でも BCP は義務ですか?

はい、対象はすべての介護保険サービス事業者です。事業規模にかかわらず、自然災害 BCP と感染症 BCP の両方の策定が義務付けられています。厚生労働省のひな形は小規模事業所向けの簡易版も提供されていますので、まずはひな形から着手することをお勧めします。

Q. 外国人スタッフが BCP の内容を理解していないまま勤務しています。どうすればよいですか?

まず、やさしい日本語(ひらがな多用・短文)で「緊急時行動サマリー」を 1 枚にまとめ、休憩室などに掲示します。次に、次回の避難訓練への参加を義務化し、体験を通じて手順を習得させる方法が効果的です。登録支援機関が多言語での情報共有を支援できる場合もあります。

Q. BCP と防災計画の違いは何ですか?

防災計画は「被害をどう最小化するか」に焦点を当てるのに対し、BCP は「被害が発生した後でも利用者へのサービスをどう継続するか」に焦点を当てています。BCP を策定する際は、既存の防災計画・避難計画との整合性を確認することが重要です。

Q. 外国人介護士の在留資格管理は BCP に含めるべきですか?

含めることを推奨します。在留カードのコピーとパスポートの写しを施設側で保管し、大規模災害時に在留資格に関する特例措置の情報を素早く取得できる体制を整えておくことで、外国人スタッフへの対応がスムーズになります。

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外国人介護士の受入れと BCP 体制の整備をまとめて相談する

BCP を実効性のある計画にするためには、スタッフ一人ひとりが自分の役割を理解していることが前提です。外国人スタッフの採用段階から「緊急時対応の多言語コミュニケーション」を視野に入れることで、BCP の実効性が大きく変わります。

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介護の現場に通い、施設長とスタッフの声をそのまま届ける取材チーム。制度よりも"温度"を大切にしています。
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