ベトナム人介護士の健康管理で注意すべきこと──介護施設の人事が押さえるべきポイント

'健康診断を案内したのに受診してくれない''体調が悪そうなのに病院に行こうとしない'。ベトナム人介護士を受け入れている施設では、こうした場面に戸惑うことも少なくありません。介護職は身体的負担が大きく利用者の安全に直結する仕事であるため、スタッフの健康管理は施設運営の根幹と言えます。そこで、ベトナム人介護士の健康管理における文化的背景と、介護施設として取り組むべきサポート体制について解説します。

ベトナム人介護士の健康管理で施設が押さえるべきポイントとは?

ベトナムでは定期健康診断の習慣が広く定着しておらず、体調不良時はまず薬局で薬を購入する文化があります。また、精神的な不調を周囲に相談しにくい社会的背景もあるため、日本の介護施設では健康保険制度の丁寧な説明・多言語対応の健診案内・'生活相談'という名称での相談窓口設置が有効です。これらの施策により、ベトナム人介護士の健診受診率向上とメンタルヘルスの早期ケアが期待できます。

なぜベトナム人介護士は健康診断を嫌がるのか?

日本では当たり前の年次健康診断ですが、ベトナム人介護士にとっては馴染みの薄いものかもしれません。その背景には、日本とは大きく異なるベトナムの医療制度や健康観が存在します。

ベトナムでは定期健康診断の'受診文化'が定着していない

日本では、労働安全衛生法により企業や施設に年1回以上の健康診断実施が義務づけられています。ベトナムでも法律上は同様の義務が定められていますが、実態としては定期的に健康診断を受けるという習慣が広く定着しているとは言い難い状況です。'体に異常がなければ医療機関を受診する必要はない'という考え方が、ベトナム社会では一般的なのでしょう。

介護職は、入浴介助や移乗介助などで身体への負担が日常的にかかる仕事です。腰痛や関節の不調を抱えやすい職種であるにもかかわらず、'痛みがあっても動けるなら問題ない'と考えてしまうベトナム人介護士も少なくありません。そのため、健康診断の案内を出しただけでは受診につながらないことがあります。

薬局が'第一の医療機関'という感覚が根づいている

ベトナムでは、体調が悪いときにまず薬局へ行くという習慣が広く定着しています。病院の受診にかかる時間や費用を考えると、薬局で症状を伝えて薬を購入するほうが合理的だと考える人が多いからです。ベトナムの薬局では、日本では処方箋が必要な薬であっても処方箋なしで購入できる場合があります。

介護現場で注意が必要なのは、こうした薬局文化と服薬管理の知識が混同されるケースです。自分自身の体調管理で薬局的な感覚を持つことは文化的に自然ですが、利用者の服薬介助では医師や薬剤師の指示に厳格に従う必要があります。この区別を入職時に伝えておくことが大切でしょう。

'病院に行く=お金がかかる'という意識が根強い

ベトナムでは、公的医療保険(BHYT)に加入していても自己負担額が大きくなることがあり、'病院に行く=高額な出費'という感覚を持つ人が多いです。日本に来てからも、健康保険の仕組みを十分に理解していないケースも珍しくありません。

'日本の健康保険では自己負担が原則3割で済む''健康診断は施設が費用を全額負担する'ということを丁寧に伝えてあげると、受診への心理的ハードルが下がるでしょう。採用の基本的な流れについては' 外国人介護士の採用方法と4つの在留資格 'もあわせてご確認ください。

ベトナム人介護士が抱える介護現場特有のメンタルヘルス課題とは?

介護の仕事には、身体的な負担だけでなく精神的な負担も大きく伴います。ベトナム人介護士にとっては、母国を離れた環境で特有のストレスを抱えやすくなるという点も見逃せません。

利用者の死や暴力・暴言が精神的な負担になる

介護施設では、担当していた利用者が亡くなるという経験を避けることができません。母国の家族や友人と離れて暮らすベトナム人介護士にとっては、悲しみを共有できる相手が限られるため、より深刻な影響が生じることがあります。

また、認知症の利用者からの暴力や暴言に直面する場面も避けがたいものです。ベトナムでは高齢者を敬う文化が根づいているため、利用者からの攻撃的な言動をどう受け止めればよいか分からず、強いストレスを感じるベトナム人介護士も少なくありません。

夜勤の精神的負担が蓄積しやすい

介護施設の夜勤は、少人数のスタッフで多くの利用者を見守る必要があるため、精神的な緊張が続きます。日本語でのコミュニケーションにまだ自信がないベトナム人介護士にとっては、夜間の緊急対応への不安がさらに大きくなることも珍しくありません。

加えて、夜勤明けの生活リズムの乱れが心身のバランスを崩すきっかけになることもあります。夜勤のある職場は初めてというベトナム人介護士が多いため、夜勤の頻度や体調の変化を定期的に確認する体制が必要でしょう。

メンタルヘルスに対する社会的偏見が相談を妨げている

ベトナムでは、精神的な不調を訴えることに対する社会的な偏見がいまだ根強いという傾向があります。メンタルヘルスの問題を'弱さ'と捉える風潮もあるため、つらい状況にあっても周囲に相談しにくい環境が生まれやすいのです。

そのため、'メンタルヘルス相談窓口'という直接的な名称よりも、'生活相談''困りごと相談'といった幅広い入口を設けるほうがいいでしょう。日常的な声かけの中で変化に気づき、早い段階で適切なサポートにつなげることが大切です。業界の現状については' 介護業界における人手不足の現状と問題点 'で詳しく解説しています。

日常的な声かけの中で変化に気づき、早い段階で適切なサポートにつなげることが大切です

施設としてどのような健康管理サポート体制を整えるべきか?

文化や制度の違いを理解したうえで、介護施設として具体的にどのようなサポートを提供できるのかを見ていきましょう。ここでは、実務で取り入れやすい施策を紹介します。

健康診断の目的と流れを母国語で丁寧に伝える

健康診断の受診率を高めるには、情報提供の方法を工夫することが重要です。ベトナム語で'施設が費用を全額負担すること''予防のために行うものであること'を明記した案内を用意しておくと安心でしょう。

さらに、健康診断の流れを事前に説明しておくことも効果的です。採血や心電図など馴染みのない検査が含まれるため、'何をするのか''なぜするのか'を母国語で伝えることが受診率の向上につながります。介護職は腰や膝への負担が大きいため、'早期に異常を見つけて長く働き続けるための検査です'という伝え方も有効でしょう。

通院サポートの体制を施設として整備する

ベトナム人介護士が日本の医療機関を受診する際、言語の壁が大きな障壁になることがあります。症状を正確に伝えられない不安から、受診そのものを避けてしまうケースも少なくありません。

そのため、多言語対応の医療機関リストを施設として作成しておくことをおすすめします。自治体や国際交流協会が外国語対応の医療機関情報を提供していることもあります。受診時の同行サポートや電話通訳サービスの情報共有も有効な手段でしょう。

送金と生活費のバランスに目を配る

ベトナムから日本に働きに来ている介護士の多くは、母国の家族へ定期的に送金をしています。送金の中には家族の医療費が含まれていることも珍しくありません。家族が病気になると送金額が急増し、日本での生活費や自身の医療費を切り詰めてしまう場合があります。

介護職の給与水準は他業種と比較して高いとは言えないため、送金とのバランスに苦しむベトナム人介護士もいるでしょう。突然の欠勤や集中力の低下が見られた場合、その背景に経済的な問題がある可能性も考慮に入れておくことが大切です。'困っていることがあれば相談してほしい'という姿勢を日頃から示しておくことが、信頼関係の構築につながります。外国人介護士の受入れ事例については' 導入事例 'もご参照ください。

ベトナム人介護士の健康管理で知っておくべき文化的な習慣とは?

医療制度やメンタルヘルスに加え、ベトナム特有の文化的な習慣を理解しておくことも、介護現場での円滑なコミュニケーションに役立ちます。

カオゾーの痕跡を見た同僚や利用者家族が誤解することがある

ベトナムには'cạo gió(カオゾー)'と呼ばれる民間療法があります。コインや専用の器具で皮膚をこすって体内の'悪い風'を追い出すという考え方に基づいており、風邪や体調不良の際に家庭で日常的に行われています。

この療法の跡が首や背中に赤い線状の痕跡として残ることがあり、それを目にした日本人スタッフが虐待や暴力を疑ってしまうケースも報告されています。利用者の家族が不安を感じる場面も考えられるでしょう。施設として、カオゾーがベトナムの一般的な伝統療法であることをスタッフ間で共有しておくと、不要な誤解を防ぐことができます。

伝統療法への信頼を否定せずに日本の医療と両立させる

ベトナムでは、西洋医学と並んで東洋医学や伝統療法が広く信頼されています。カオゾーに限らず、薬草を使った治療法や民間療法を日常的に取り入れているベトナム人も多いでしょう。

伝統療法を頭ごなしに否定することは、本人の文化を否定することにもつながりかねません。'日本の医療機関でも診てもらうと安心できますよ'という形で受診を促すことが効果的です。健康管理のルールを明確にしつつ、文化的な背景にも配慮した対応を心がけることが大切でしょう。介護人材の確保と定着に向けた情報は' 介護人材紹介 'のページでもご案内しています。

まとめ

ベトナム人介護士が健康診断を敬遠したり、病院に行かなかったりする背景には、薬局中心の受診文化や健診習慣の未定着、メンタルヘルスへの偏見など、さまざまな文化的要因が絡み合っています。介護施設では身体的にも精神的にも負担の大きい業務にスタッフが従事するため、こうした文化の違いを理解したうえで適切なサポートを提供することが欠かせません。母国語での情報提供や通院サポート、日常的な声かけなど、できることから取り組むことで、ベトナム人介護士がともに安心して働ける環境づくりにつながるでしょう。

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よくある質問

Q. ベトナム人介護士が健康診断を受けてくれない場合、どう対応すればよいですか?

A. ベトナムでは定期健診の習慣が薄いため、まず健診が施設負担で無料であること、日本の健康保険で自己負担が3割で済むことを母国語も交えて丁寧に説明しましょう。先に受診したベトナム人スタッフの体験談を共有するのも効果的です。

Q. ベトナム人介護士のメンタルヘルスケアではどんな工夫が必要ですか?

A. ベトナムでは精神的な不調を相談することへの偏見が根強いため、'メンタルヘルス相談'ではなく'生活相談'や'困りごと相談'という名称で窓口を設けると利用されやすくなります。日常の声かけで変化に気づき、早期にサポートにつなげることが大切です。

Q. ベトナム人介護士が薬局で自己判断で薬を買ってしまうのですが、注意すべきことはありますか?

A. ベトナムでは処方箋なしで薬を購入する習慣があるため、自身の体調管理としては文化的に自然な行動です。ただし、利用者への服薬介助では医師・薬剤師の指示に厳格に従う必要がある点を、入職時に明確に伝えておきましょう。

Q. 夜勤に不安を感じるベトナム人介護士にはどのようなサポートが有効ですか?

A. 夜勤が初めてのベトナム人介護士が多いため、まず夜勤の業務内容や緊急時の連絡手順を母国語の資料で事前に説明しましょう。夜勤の頻度を段階的に増やす、先輩スタッフとペアを組ませるなどの配慮も安心感につながります。

Q. ベトナムと日本の医療保険制度の違いをどう説明すればよいですか?

A. ベトナムでは公的医療保険に加入していても自己負担が大きく、'病院=高額な出費'というイメージがあります。日本では健康保険により自己負担が原則3割であること、健康診断は施設が全額負担すること、高額療養費制度があることを具体的な金額例とともに説明すると安心感が生まれます。

参考文献・出典

ともにケア編集部
介護の現場に通い、施設長とスタッフの声をそのまま届ける取材チーム。制度よりも"温度"を大切にしています。
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