ベトナム人介護士が戸惑う日本の介護現場――文化の違いを理解して受入れ体制を整える方法

ベトナム人介護士に'日本の介護施設で驚いたことは何ですか'と尋ねると、介護技術よりも"現場の習慣"に関する答えが返ってくることが多いと言われています。介護記録の書き方、利用者家族への挨拶、夜勤シフトの考え方など、独特のルールが数多く存在します。こうした文化ギャップを放置すると、早期離職の原因にもなりかねません。そこで、ベトナム人介護士が特に戸惑いやすい介護現場の習慣を場面別に整理し、施設として取るべき対処法まで解説します。

ベトナム人介護士が日本の介護現場で最も戸惑うことは何?

ベトナム人介護士が最も戸惑うのは、介護技術そのものではなく、日本の介護現場特有の'暗黙のルール'です。報連相(報告・連絡・相談)の文化、'空気を読む'コミュニケーション、介護記録の詳細な書き方、そしてシフト勤務や休暇の考え方が主な戸惑いポイントです。N2レベルの日本語力があっても介護専門用語は別途学習が必要であり、施設側がやさしい日本語の用語リストやテンプレートを整備することで、文化ギャップの多くは解消できます。

ベトナム人介護士が介護現場の日本語でつまずくポイントとは?

日本語には言葉の表面的な意味と実際の意図が異なる表現が数多くあります。日常会話レベルの日本語を習得していても、介護現場特有の言い回しや専門用語に直面すると大きな壁を感じることがあります。

介護専門用語はベトナム人にとって'もう一つの外国語'である

介護現場では'臥床(がしょう)''嚥下(えんげ)''褥瘡(じょくそう)''清拭(せいしき)'といった専門用語が日常的に使われています。これらは日本人であっても介護の仕事に就くまで耳にしたことがない言葉であり、日本語能力試験(JLPT)の学習範囲にも含まれていません。そのため、N2レベルの日本語力を持つベトナム人介護士であっても、現場に出た途端に戸惑うケースも珍しくありません。

対処法としては、施設でよく使う介護用語をリスト化し、やさしい日本語での言い換え表現とセットで共有しておくことが大切です。たとえば'臥床'は'ベッドに横になること'、'嚥下'は'飲み込むこと'のように置き換えた一覧表を休憩室に掲示しておくと安心でしょう。外国人介護士に どの程度の日本語力が必要か は、在留資格の種類によっても異なります。

'検討します''様子を見ましょう'は断りや保留の合図である

日本のコミュニケーションでは、提案を断る際に'検討します''様子を見ましょう'といった婉曲的な表現を使う傾向があります。しかしながら、ベトナムではYesかNoかをはっきり伝えるのが一般的です。そのため、'様子を見ましょう'と言われたベトナム人介護士が前向きに受け取り、返事を待ち続けるという事態が起こることも珍しくありません。

介護チーム内では、ベトナム人スタッフに対して結論を先に伝える意識を共有することをおすすめします。'今は変更できませんが、理由は〜です'のように明確に伝えるほうが信頼関係の構築につながるでしょう。

'空気を読む'を介護チームに求めると情報共有に支障が出る

'空気を読む'という概念は日本の介護チームでも暗に求められる場面があります。しかしながら、ベトナムでは意見があれば比較的率直に伝える傾向があるため、'言わなくても分かるだろう'という前提が通じにくいことがあります。

介護現場で重要な情報が'空気を読めなかった'という理由で共有されないのは、利用者の安全にも関わる問題です。そのため、'気づいたことがあれば遠慮せずに声に出してください'という方針をチーム全体で明確にしておくことが大切です。これはベトナム人介護士のためだけでなく、情報共有の質を高めるという点でも効果的でしょう。

ベトナム人介護士が介護記録と申し送りで苦労する理由とは?

介護施設の日常業務で大きな比重を占めるのが、介護記録の作成と申し送りです。この領域はベトナム人介護士にとって、言語面でも文化面でもハードルが高い業務かもしれません。

ベトナムの職場には'報連相'に相当する概念がない

'報告・連絡・相談'を略した'報連相(ほうれんそう)'は、日本の介護現場でも基本的なコミュニケーションルールとされています。しかしながら、ベトナムの職場には報連相に相当する概念が存在しません。ベトナムでは'順調なら報告は不要''自分で解決できることは自分でやる'と考える人も多いと言われています。

そのため、ベトナム人介護士が報告をしないのは'怠けている'のではなく、'報告する必要があると認識していない'可能性が高いと考えていいでしょう。'利用者の食事量がいつもより少なかったら報告する''夜間に普段と違う様子があったら記録に残す'のように、具体的な場面と行動をセットで伝える必要があります。

介護記録は'書く文化'への段階的な適応が鍵になる

日本の介護施設では、利用者のバイタルサインや食事量、排泄状況などを詳細に記録することが日常業務です。一方、ベトナムの現場では口頭での引き継ぎが主流であり、毎回文書で記録を残す習慣は一般的ではありません。

加えて、介護記録には'〜の訴えあり''〜を促すも拒否'といった独特の表現が使われます。そのため、最初は記録のテンプレートを用意し、先輩スタッフが隣で一緒に書く時間を設けることをおすすめします。徐々に自分で書ける範囲を広げていく段階的なアプローチが、定着と成長の両面で効果を発揮するでしょう。介護業界全体の 人手不足の現状 を考えると、外国人介護士が安心して働ける記録体制の整備は施設の競争力にもつながります。

日々の小さな対話の積み重ねが、信頼関係の土台となり、ケアの質を高めることにつながります

ベトナム人介護士がシフト勤務や休暇制度で戸惑うのはなぜ?

介護施設の勤務体系や施設行事に対する認識の違いも、ベトナム人介護士が戸惑いやすいポイントです。労働時間や休暇に対する考え方が異なるため、事前の説明が欠かせません。

夜勤と祝日出勤はベトナム人にとっても大きな環境変化である

介護施設では早番・日勤・遅番・夜勤というシフト制が基本であり、土日祝日の勤務も避けられません。ベトナムの企業でもシフト制は存在しますが、少人数で夜間の利用者対応を行う経験を持つベトナム人は多くないでしょう。加えて、ベトナムでは旧正月(テト)が最も重要な祝日であり、この時期に帰国できないことがストレスの原因になることもあります。

そのため、シフトの仕組みや夜勤の業務内容を入職時に丁寧に説明することが大切です。テトの時期については年度の早い段階からシフト調整の相談ができる体制をつくっておくほうがいいでしょう。

有給休暇は'使って当然'がベトナムの感覚である

ベトナムでは有給休暇を計画的に消化するのが当然とされています。一方、日本の介護施設では人員配置基準があるため、希望日にそのまま休めるとは限りません。この違いを説明しないまま放置すると、'権利が守られない'という誤解が生まれかねません。

そのため、'申請は何日前までに''他スタッフと重なる場合は調整が必要'といった運用ルールを入職時に書面で共有しておくことをおすすめします。制度の背景を丁寧に説明すれば、納得して対応してくれるでしょう。

施設の季節行事は'余興'ではなくケアの一部である

日本の介護施設では、お花見や夏祭り、敬老の日といった季節行事が年間を通じて企画されます。介護施設の行事は利用者の心身の活性化を促すケアの一環であり、一般企業の懇親会とは目的が異なります。

そのため、事前に行事の目的を説明し、可能であればベトナムの行事を紹介するコーナーを設けてあげると、利用者との会話のきっかけにもなります。文化交流の場として活用することで、ベトナム人介護士が施設の一員としての実感を持ちやすくなるでしょう。

ベトナム人介護士が利用者やご家族への接し方で困る場面とは?

介護施設では、利用者本人だけでなくご家族とのコミュニケーションも重要な業務です。この領域にはベトナムとは異なる日本独自のマナーが存在します。

利用者を'おばあちゃん'と呼ぶのは親しみではなくマナー違反になる

ベトナムでは年長者を'ong(おじいさん)''ba(おばあさん)'と呼ぶことが敬意の表現とされています。しかしながら、日本の介護施設では利用者を'〜さん'と名字で呼ぶのが基本であり、'おじいちゃん''おばあちゃん'といった呼び方は利用者の尊厳を損なうとして避けられています。

'日本では一人ひとりの名前を大切にすることが敬意の示し方です'と文化の背景から説明することが大切です。ベトナムの呼び方を否定するのではなく、'日本ではこのように表現する'と伝えてあげると受け入れやすいでしょう。

利用者家族への挨拶は信頼構築の第一歩である

日本の介護施設では、面会に来たご家族への挨拶や近況報告も介護スタッフの役割です。ベトナムでは年長者の世話は家族が担うのが伝統的な考え方であるため、'なぜ施設に預けるのか'と感じるベトナム人介護士もいるかもしれません。

核家族化・高齢化によって家族だけでは介護を担いきれない背景を研修で説明しておくと理解が深まります。ご家族への挨拶で使うフレーズを事前に練習しておくことをおすすめします。実際の 導入事例 からも具体的なヒントが得られるでしょう。

まとめ

ベトナム人介護士が驚く日本の介護現場の習慣の多くは、日本人スタッフにとっては'当たり前すぎて説明する必要がない'と感じるものばかりです。しかしながら、この'当たり前'の違いこそが現場での誤解や摩擦の原因になります。そのため、ベトナム人介護士を受け入れる際は、介護現場特有の暗黙のルールやコミュニケーションの特徴を意識的に'言語化'し、丁寧に伝えていくことが大切です。

文化の違いは、どちらが正しくてどちらが間違っているという話ではありません。お互いの'当たり前'を知り、歩み寄る努力を続けることで、ベトナム人介護士も日本人スタッフも、そして利用者も、ともに安心できる 介護の現場 が生まれるでしょう。日々の小さな対話の積み重ねが、信頼関係の土台となり、ケアの質を高めることにつながります。

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よくある質問

Q. ベトナム人介護士に報連相を定着させるにはどうすればよいですか?

A. ベトナムでは'順調なら報告不要'という考え方が一般的で、報連相の概念自体が存在しません。そのため、'利用者の食事量がいつもより少なかったら報告する''夜間に普段と違う様子があったら記録に残す'のように、具体的な場面と行動をセットで伝えることが有効です。チェックリストを活用すると習慣化しやすくなります。

Q. 介護記録をうまく書けないベトナム人介護士をどうサポートすればよいですか?

A. 最初は記録のテンプレートを用意し、先輩スタッフが隣で一緒に書く時間を設けるのがおすすめです。'〜の訴えあり''〜を促すも拒否'といった介護記録特有の表現は、やさしい日本語での言い換えリストをあわせて提供してください。段階的に自分で書ける範囲を広げていくアプローチが効果的です。

Q. ベトナム人介護士にとって日本の介護専門用語はどの程度難しいですか?

A. 臥床(がしょう)、嚥下(えんげ)、褥瘡(じょくそう)、清拭(せいしき)などの専門用語は、日本人でも介護職に就くまで知らない言葉がほとんどです。日本語能力試験(JLPT)の学習範囲にも含まれていないため、N2レベルの日本語力があっても現場で戸惑うケースは珍しくありません。施設独自の用語リストを作成し、休憩室に掲示しておくことをおすすめします。

Q. ベトナム人介護士が旧正月(テト)に長期帰国を希望したら、どう対応すべきですか?

A. テト(旧正月)はベトナム人にとって日本のお盆と正月を合わせたような最も重要な行事です。帰国を希望する時期は毎年1月下旬〜2月頃で、入職時にあらかじめシフト調整のルールを伝えておくとトラブルを防げます。'申請は3か月前まで''交代要員の確保に協力する'など、明確な基準を設けることが大切です。

Q. 文化ギャップが原因でベトナム人介護士が早期離職するのを防ぐには?

A. 入職後3か月間が最も文化ギャップを感じやすい時期です。この期間にメンター制度を導入し、業務上の疑問だけでなく生活面の相談にも対応できる体制をつくることが有効です。あわせて、日本人スタッフ向けの異文化理解研修を実施すると、受け入れ側の対応力も向上し、双方にとってストレスの少ない職場環境が実現します。

参考文献・出典

ともにケア編集部
介護の現場に通い、施設長とスタッフの声をそのまま届ける取材チーム。制度よりも"温度"を大切にしています。
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