介護施設の経営改善|稼働率・人材確保・財務管理で収益を安定させる実践ガイド【2025年版】

介護施設の経営は、今や「制度・人材・財務」という三つの軸を同時に管理しなければ持続可能な運営を実現するのが難しい時代です。「稼働率が上がらない」「職員の離職が止まらない」「毎月赤字が続く」という悩みを抱えている施設長や人事担当者の方は、少なくないのではないでしょうか。

独立行政法人福祉医療機構(WAM)のデータでは、特別養護老人ホームの約40%が収支差率マイナスという現実があります。しかし、同じ制度環境にあっても経営改善に成功している施設はあります。その違いは「正しい指標を見て、正しい順序で手を打っているかどうか」にあります。

この記事では、介護施設経営の現状と課題を整理したうえで、稼働率の向上・加算取得の最適化・人材確保コストの削減・財務管理という三軸を中心に、現場で実践できる具体策を解説します。「明日から使える」情報を目指していますので、ぜひ最後まで読んでみてください。

介護施設経営が厳しくなっている背景

介護報酬の構造的な課題

介護施設の収入のほとんどは介護報酬で決まります。そして介護報酬は3年ごとの改定で変化します。2024年度改定では全体改定率 +1.59% となりましたが、基本報酬が引き下げられたサービス種別も存在し、加算要件を満たせていない施設では実質的に収入が減少するケースがあります。

「改定率プラスだから安心」という認識は、実は危険です。自施設が算定している加算の変更点を一つひとつ確認し、新設・拡充された加算を素早く取り込む姿勢が求められます。制度変更に気づかないまま数か月が経過すると、取り漏れた加算分がそのまま収入減となって経営を圧迫します。

人材不足と採用コストの上昇

厚生労働省の試算では、2040年度には介護職員が約57万人不足するとされています。人材難が続く中、採用コストは年々上昇しており、求人広告費・紹介手数料・採用担当者の工数を含めると、1人あたり50万円から100万円以上かかるケースも珍しくありません。

さらに、採用しても3年以内に離職するケースが多く、「採用→育成→離職→再採用」という負のサイクルが経営を継続的に圧迫しています。この問題は採用費用だけの話ではなく、育成にかかった時間と労力のロスも大きく、現場スタッフのモチベーションにも影響します。

物価上昇と光熱費・食材費の高騰

2022年以降のエネルギー・食材価格の上昇は、介護施設の固定費を直撃しています。介護報酬が固定されている一方で物価は上がり続けているため、コスト管理の巧拙が収支を大きく左右するようになっています。光熱費の見直しや給食コストの最適化など、これまで後回しにされがちだったコスト改善が、今や経営の優先課題となっています。

経営改善の三軸:制度・人材・財務

介護施設の経営改善は、以下の三軸を同時に動かすことで効果が出やすくなります。それぞれを単独で対策しても、他の軸がボトルネックになりがちです。

| 軸 | 主な課題 | 改善の方向性 |

|---|---|---|

| 制度軸 | 加算の取り漏れ・稼働率の低下 | 加算最適化・入居促進 |

| 人材軸 | 採用コスト・離職率の高さ | 外国人材活用・定着支援 |

| 財務軸 | キャッシュフローの不安定さ | 指標管理・コスト削減 |

この三軸は互いに連動しているため、「人が足りないから稼働率が上がらない」「稼働率が低いから賃上げできない」「賃上げできないから人が辞める」という悪循環に陥ると、単発の対策では根本的な解決につながりません。

【制度軸】介護報酬加算の最適化と稼働率向上

稼働率の目標値を把握する

特別養護老人ホーム(特養)や介護老人保健施設(老健)の場合、収支差率がプラスになる稼働率の目安は90%以上とされています。現時点で85%を下回っているなら、入居促進対策が急務です。

入居促進の具体的な手法としては、以下が効果的です。

  • 地域包括支援センターとの連携強化:定期的な情報交換と、空き情報の迅速な共有
  • 担当ケアマネジャーへの訪問:月次訪問で施設の特徴と入居可能状況をアップデートする
  • ウェブサイト・SNSの整備:Google ビジネスプロフィールの更新と施設の日常を発信するコンテンツで検索流入を確保

算定できる加算を洗い出す

介護報酬の加算は数十種類に及び、施設が要件を満たしているにもかかわらず「知らなかった」「申請を忘れていた」というケースが現場では多く見られます。これはかなりもったいない状況です。

加算の取り漏れを防ぐためには、以下のサイクルを作ることが効果的です。

  1. 年に一度、算定可能な加算の全量チェック(介護報酬加算一覧との照合)
  2. 新設・拡充加算について、要件充足の可否を判断
  3. 要件未充足の加算について、充足コストと収入増加額のROIを計算

特に「科学的介護推進体制加算(LIFE加算)」「処遇改善加算」「特定処遇改善加算」は、要件を整備することで大きな収入増加につながります。LIFE加算はデータ入力作業が増える面もありますが、加算収入を加味すると導入するメリットの方がはるかに大きいケースが多いです。

【人材軸】外国人介護士の戦略的活用と日本人職員の定着

外国人介護士受入れの現状

出入国在留管理庁のデータによると、介護分野の特定技能1号在留外国人は2025年10月末時点で急増を続けており、すでに多くの施設が外国人介護士の受入れを開始しています。「うちにはまだ早い」と感じている施設長の方もいるかもしれませんが、実際には定員29名以下の小規模施設でも導入が進んでいます。

外国人介護士の受入れが経営改善につながる大きな理由は、採用コストの構造にあります。一般的な日本人介護士を紹介会社経由で採用する場合、紹介手数料だけで年収の20〜30%(100〜150万円程度)かかることがあります。一方、特定技能介護の場合、登録支援機関への委託費はかかりますが、トータルコストを抑えられるケースが多いです。

在日外国人材を活用するメリット

すでに日本に在住している外国人介護士を採用することで、ビザ取得の待機期間がなく即戦力として活用できます。N2レベル以上の日本語力を持つ候補者であれば、入居者・家族との日常的なコミュニケーションに支障が出ることも少なくなります。

受入れ体制として重要なのは、以下の点です。

  • OJT期間の確保:最初の3か月は先輩スタッフとのペア勤務を基本とする
  • 多言語対応のマニュアル整備:業務手順書の母国語版を用意すると習得速度が上がる
  • 定期的な1on1面談:生活上の悩みも含めてサポートする仕組みが離職防止につながる

こうした受入れ体制を整えると、3〜6か月後には「名指しで指名される」関係が生まれることも少なくありません。

日本人職員の定着率を高める取り組み

外国人材の受入れと並行して、日本人職員の離職率改善も不可欠です。主な離職理由の上位には「身体的・精神的な負担」「賃金への不満」「人間関係」が挙げられています。

  • 夜勤回数の上限設定:職員ごとの月間夜勤回数を可視化し、特定の職員への集中を防ぐ
  • ICT・介護ロボットの導入:記録業務の効率化で残業を削減する
  • 処遇改善加算の還元方法の透明化:「加算を取っているのに給与に反映されていない」という不満を解消する

これらは一度に全部やろうとするとリソースが分散してしまいます。まず離職理由をアンケートで把握し、上位2〜3項目に絞って対策するのが現実的です。

財務管理の具体策:コストと資金繰りを同時に改善する

主要KPIを月次で追う仕組みをつくる

介護施設経営の健全性を評価するうえで、最低限把握しておきたいKPIは以下の5つです。

| KPI | 目安(特養の場合) | 確認頻度 |

|---|---|---|

| 収支差率 | +2〜5%が健全 | 月次 |

| 人件費比率 | 60〜65% | 月次 |

| 稼働率 | 90%以上 | 週次 |

| 1人あたり介護報酬 | 施設平均と比較 | 四半期 |

| 給食原価率 | 30〜35%が目安 | 月次 |

これらをスプレッドシートや経営管理ツールに入力し、月次で施設長・管理職が確認するルーティンを作ることが大切です。数字を「見える化」するだけで問題の早期発見につながります。定期的に実施することをお勧めします。

食材費の最適化:食品ロスの削減と購買ルートの見直しで、利用者1日あたりのコストを抑える工夫が現場で広がっています。地域農家との直契約で食材費を削減している施設もあります。

介護報酬の入金サイクルを踏まえたキャッシュフロー管理

介護報酬は請求月の翌月審査・翌々月支払いとなるため、月末の現金残高には常に約2か月分のタイムラグが生じます。銀行との信用枠(コミットメントライン)や、独立行政法人福祉医療機構(WAM)の低利融資制度を活用し、手元流動性を確保しておくことが経営の安全弁となります。

WAM の経営支援ネット(https://www.wam.go.jp/)では、同規模・同タイプの施設の経営データと自施設を比較できる無料ツールも提供されています。自施設の弱点把握の第一歩として活用してください。

よくある質問(FAQ)

Q. 介護施設の経営は赤字が多いというのは本当ですか?

A. 独立行政法人福祉医療機構(WAM)の「介護サービスの経営状況(2024年度)」によると、特別養護老人ホームの約40%が収支差率マイナスとなっています。小規模施設・地方施設でこの傾向が顕著です。ただし、加算の取得状況・稼働率・人件費管理の巧拙によって収益は大きく変わります。適切な指標管理と改善策の実行が、経営の鍵を握ります。

Q. 外国人介護士を受け入れると、利用者や家族からクレームはありませんか?

A. 導入初期に不安を示す利用者・家族は一定数います。しかし弊社の受入れ事例では、N2 レベル以上の日本語力を持つスタッフを配置し、OJT を丁寧に実施することで、3〜6か月後には「あの人に担当してほしい」と名指しで指名される関係に発展しているケースが多くあります。コミュニケーション研修・ペアリング配置など受入れ体制の整備が成否を左右します。

Q. 小規模な施設(定員 29 名以下)でも特定技能介護を受け入れられますか?

A. 受け入れられます。特定技能介護の受入れに施設規模の制限はありません。ただし、登録支援機関への委託(義務)が発生するため、月次の委託費と採用コストのバランスを慎重に検討する必要があります。定員 29 名以下の小規模施設でも、1〜2 名の外国人介護士が経営の安定に貢献した事例は多数あります。

Q. 2024年度介護報酬改定で、自施設の収入にどんな影響がありますか?

A. 改定率は全体で +1.59% ですが、施設タイプ・サービス種別・算定している加算の変更内容によって影響は異なります。基本報酬がマイナス改定のサービス種別もあるため、自施設の算定加算の変更点を逐一確認することが重要です。不明な点は管轄の都道府県国民健康保険団体連合会(国保連)または都道府県の担当部署にご相談ください。

Q. 経営を立て直す際、まず何から着手すべきですか?

A. まず「収支差率」「人件費比率」「稼働率」の3指標を数値で把握することから始めてください。WAM の経営支援ネットで同規模・同タイプの施設平均と比較することで、自施設の弱点が浮き彫りになります。そのうえで稼働率の回復・加算取得の最適化・採用コストの圧縮の順に優先順位をつけて着手するのが、一般的かつ実効性の高いアプローチです。

まとめ:介護施設の経営は「制度 × 人材 × 財務」の三軸で改善する

介護施設経営の改善は、単発の対策で解決するものではありません。

  • 制度軸:介護報酬の加算を漏れなく取得し、改定への対応を迅速に行う
  • 人材軸:採用コストを抑えながら定着率を高める。外国人介護士の受入れが有力な選択肢
  • 財務軸:稼働率・人件費比率・キャッシュフローを月次で数値管理する

この三軸を同時に動かすことで、経営の安定と持続可能な現場づくりが実現します。制度環境が厳しい中でも、指標を正しく把握し、一手ずつ改善を積み重ねている施設は確実に存在します。

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参考文献

  • 厚生労働省「第9期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について」(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushikaigo/kaigokoureisha/index.html)
  • 出入国在留管理庁「特定技能在留外国人数(2025年10月末時点)」(https://www.moj.go.jp/isa/applications/status/specifiedskilledworker.html)
  • 独立行政法人福祉医療機構(WAM)「介護サービスの経営状況(2024年度)」(https://www.wam.go.jp/)
  • 厚生労働省「令和6年度介護報酬改定の概要」
  • 厚生労働省「令和6年度 介護労働実態調査」
ともにケア編集部
介護の現場に通い、施設長とスタッフの声をそのまま届ける取材チーム。制度よりも"温度"を大切にしています。
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